講演情報
[I-P02-5-03]運動負荷心エコー図により心室中部閉塞を診断することができた無症候性小児肥大型心筋症の1例
○小野 奈津子1, 住友 直文1, 山岸 敬幸1,2, 古道 一樹1,3, 福島 裕之4, 小柳 喬幸1, 丸山 篤志1, 福山 隆博1 (1.慶應義塾大学 医学部 小児科学教室, 2.東京都立小児総合医療センター, 3.東京都立大塚病院 小児科, 4.東京歯科大学市川総合病院 小児科)
キーワード:
hypertrophic cardiomyopathy、mid ventricular obstruction、exercise stress echocardiogram
【背景】肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy: HCM)において、心室中部閉塞(midventricular obstruction: MVO)は心臓突然死のリスク因子とされるが、MVOに対する運動負荷心エコー図の報告は少なく、その意義は明らかでない。【症例】15歳の男児。9歳時の学校心臓検診で異常Q波を指摘され、経胸壁心エコー図で心室中隔壁厚の肥大(10mm、Z=+2.8)よりHCMと診断された。自覚症状なく経過したが、心室中隔壁厚が23.5mm (Z=+5.2)まで経時的に進行したため、当院を紹介受診した。臥位エルゴメーター運動負荷心エコー検査では、7分間の運動負荷中に左室中部の血流加速が顕在化し、圧較差は安静時9mmHgから負荷直後最大69mmHgに達した。学校生活管理区分を「D禁」とし、ビソプロロールを導入した。その後も内服を継続し、2年間の経過観察で心血管イベントなく安定した経過を辿っている。直近の心エコー検査では心室中隔壁21.3mm (Z+5.0)と明らかな進行はなく、近日中にフォローアップのための運動負荷心エコー再検予定である。【考察】本症例は心室中隔中部の肥厚により肥大型心筋症と診断され、安静時に閉塞は見られなかったが、運動負荷中に肥厚部位の圧較差が30mmHg以上に増大したためMVOの診断に至った。失神や家族歴、心機能低下は伴わないものの、中隔肥厚は進行性で、Gabrielleらの小児HCMにおける予測モデルから算出した本症例の5年間の心臓突然死リスクは2.7%であった。小児の運動制限は発育やQOL低下につながるため慎重に判断すべきだが、本症例では強い運動により心イベントを発生するリスクがあることから、運動を制限した。また、β遮断薬が心肥大の進行や心尖部瘤の形成に抑制的に働き、心イベントのリスクを低減することを期待している。【結語】心室中隔中部肥厚を伴う無症候性のHCM小児において、運動負荷心エコー図は潜在性のMVOの診断に有用である。