講演情報
[I-P02-5-08]長期間の経腸栄養剤の使用により、セレン欠乏性心筋症を来した小児例
○藤田 祐也1,2, 永井 礼子1, 澁川 尚幸1,2, 板橋 立紀1, 鈴木 祐人1, 佐々木 大輔1, 山澤 弘州1, 武田 充人1 (1.北海道大学病院 小児科, 2.自衛隊札幌病院 小児科)
キーワード:
セレン欠乏、心筋症、心筋シンチグラフィ
【背景】必須微量元素であるセレンは、その欠乏により心筋障害を来すことが知られているが、そのメカニズムについては、いまだ不明な点が多い。今回、長期の経腸栄養剤使用によりセレン欠乏性心筋症を発症した小児例を経験したため、各種検査所見を交えて報告する。【症例】2歳男児。先天性心疾患(両大血管右室起始症、心室中隔欠損症、肺動脈弁狭窄症)、食道閉鎖症、鎖肛、乳児消化管アレルギー、蘇生後脳症を合併していた。心内修復術後の定期受診時に、著明な左室収縮能低下、左室拡大、brain natriuretic peptide(BNP)値の上昇が確認された。先天性心疾患による心不全および冠動脈異常は否定的であった。血清セレン値が検出感度以下であり、乳児消化管アレルギーのためにエレンタール®Pでの栄養管理を長期間継続していたことによる、セレン欠乏性拡張型心筋症が疑われた。心筋シンチグラフィーでは下壁での集積低下と、冠動脈支配領域とは一致しない血流・代謝ミスマッチが確認された。心筋生検では心筋線維の肥大と大小不同、ミトコンドリアの大型化と大小不同、びまん性間質線維化、dense granulesが確認された。サプリメントによるセレン補充、利尿剤・β遮断薬・SGLT2阻害薬の投与を開始したところ、約1年後から左室収縮能およびBNPが徐々に改善するようになった。加療開始から約2年後、左室駆出率、BNPは正常化したが、左室dyssynchronyは残存している。【考察】本症例では元々先天性心疾患を合併していたことから、セレン欠乏性心筋症が生じる前から心機能を評価することができ、かつセレン欠乏がミトコンドリア機能や心筋微小循環にもたらす影響を多角的に評価することが可能であった。本症例の各種検査所見に基づくと、セレン欠乏性心筋症にはセレン補充のみならず、虚血性心疾患としての内科的加療も有効である可能性が示唆される。