講演情報

[I-P03-1-01]Basedow病に伴いQT延長を呈した小児例:KCNQ1遺伝子ミスセンス変異の関与について

熊本 愛子1, 西村 真二1, 熊本 崇2 (1.佐賀県医療センター好生館, 2.佐賀大学医学部附属病院)
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キーワード:

QT延長、甲状腺機能亢進、遺伝子ミスセンス変異

【背景】甲状腺機能亢進(Ht)はQT延長との関連が示唆されているが,その病態生理は十分に解明されていない.一方で, LQT遺伝子変異を有する小児においてHtによるQT延長の報告は確認されていない. 【症例】14歳男子.10歳時より多汗および体重増加不良を認め,14歳時に外傷性くも膜下出血で入院中,頻脈を指摘され紹介された.初診時,安静時心拍数120 bpm,TSH<0.01 mIU/L,FT3>30 pg/mL,FT4 5.34 ng/dL,QTcB 0.53秒,QTcF 0.49秒とQT延長を認めたが,電解質異常はなかった.心エコーでは中等度僧帽弁逆流と左心負荷所見を認めた.アテノロールならびに利尿剤により心拍数と左心負荷は改善したものの,QT延長は持続した.TRAb陽性でBasedow病と診断し,チアマゾールおよびヨウ化カリウムによる治療を開始したところ,治療開始3か月後にQT時間およびT波形が正常化した.遺伝子検査で既知の異常は認められなかったものの,KCNQ1遺伝子のヘテロ接合性ミスセンス変異(p.Pro448Arg)が検出された.この変異はClinVarデータベースにおいて“Benign/Likely benign”と分類されていた.なお,小学校1年時の心電図ではQT延長を認めなかった.【結語】Basedow病により一過性QT延長を呈し,KCNQ1遺伝子のミスセンス変異が認められた症例を報告する.本症例は,“Benign”とされるKCNQ1遺伝子変異がHtに伴う交感神経亢進状態と相互作用し,QT延長を引き起こした可能性を示唆している.“Benign”とされる遺伝子変異であっても,特定の病態下でQT延長や致死性不整脈を誘発することがあると報告されている.そのため,遺伝子変異の疾患関連性が明確でない場合でも慎重な解釈が必要であり,本症例は診断およびリスク評価の一助となる可能性がある.