講演情報
[I-PAL-1]川崎病におけるシングルセル解析
○平井 健太 (岡山大学病院 小児科)
キーワード:
川崎病、シングルセル解析、病態解明
【背景】シングルセル解析(single cell RNA-seq)は、細胞1個1個の遺伝子発現を網羅的に解析する手法である。従来は、組織や細胞集団から抽出したmRNAをまとめて解析(bulk RNA-seq)していたが、多様な細胞の平均値を解析するため、サンプル中の不均一性を見落とす欠点があった。シングルセル解析では個々の細胞の特徴をふまえて、希少な細胞群の同定や細胞間ネットワーク解析、偽時間軸解析などが実施可能である。川崎病や小児多系統炎症性症候群(MIS-C)においても、患者の末梢血単核球を用いたシングルセル解析が2021年から海外で多数実施され、抄録執筆時点で計13本の論文発表があり、これらのメタ解析も進んでいる。一方で、川崎病における最も重篤な合併症である冠動脈瘤の発症機構を解明するには、心臓組織を用いて冠動脈炎の遺伝子発現解析を行う必要がある。【目的】我々は、Candida albicans water-soluble fractionを用いた川崎病モデルマウスの心臓組織から細胞を抽出し、免疫グロブリン前投与の有無で冠動脈炎の各時相においてシングルセル解析を実施することで、川崎病冠動脈炎の病態解明や、冠動脈炎を抑制する新規治療薬候補の探索を行った。【結果】モデルマウスの心臓組織でも患者末梢血と同様に、炎症初期にCD177陽性の活性化好中球が増加していた。またエンリッチメント解析で炎症カスケードを評価し、免疫細胞に応答して血管内皮細胞などの非免疫細胞においてもインターフェロン関連の遺伝子発現が亢進していることを見出した。さらにシングルセル解析のデータを機械学習し、細胞に3.4万種類の低分子化合物を添加した際の応答遺伝子発現プロファイルと比較することで、川崎病に最適化したAI薬効予測モデルを独自に構築し、新規治療薬候補を複数同定した。本講演では、川崎病患者やモデルマウスの細胞を用いたシングルセル解析や、AI薬効予測モデルによる新規治療薬候補の探索法につき紹介する。