講演情報

[I-PD4-2]世界に誇る日本の疫学データの解析研究は、川崎病の原因究明をサポートする

阿江 竜介 (自治医科大学 地域医療学センター 公衆衛生学部門)
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キーワード:

川崎病、疫学、COVID-19

川崎病全国疫学調査により蓄積されてきた疫学データは、日本全国の臨床現場で川崎病患者の診療に尽力する小児科医の熱意と献身的支援の賜物であり、原因究明への切なる願いが込められている。50年以上にわたって継続されてきたこの調査のデータベースには現在、40万人超という世界でも圧倒的な数の患者情報が登録されている。このデータベースを用いた疫学研究は諸外国でも学術的に高く評価されており、これまでに複数の国際共同研究も実施されてきた。
感染症、気候、環境要因など、川崎病には多彩な病因仮説が提唱されているが、コロナ禍における川崎病発症者の急激な減少は、これらの仮説を再検討する契機となった。例えばコロナ禍では、低年齢層と比較して学齢期(5歳以上)の発症者の顕著な減少が見られており、マスク着用や social distancing などの感染予防対策が川崎病の発症に予防的影響を及ぼした可能性が示唆されている。さらに2021年では、従来の典型的な季節的発症パターン(冬に多い)が劇的に変化し、夏期(8月)に予期せぬピークが観察されている。この変化には、同時期に過去最高の発症者数を記録したRSウィルス感染症との関連も疑われる。
川崎病全国疫学調査の特性は、高い悉皆性(回答率)と診断の正確さにあり、本邦における川崎病の実態を極めて正確に反映していることにある。高い信頼性を有する本邦の疫学データの解析研究は、川崎病の発症に関わる要因解明に貢献できる可能性がある。さらに、実地臨床を担う小児科医との真の協働により、病因仮説の検討だけでなく、川崎病の診断・治療の更なる向上につながる知見の創出も期待できる。