講演情報

[I-SY1-5]DSCが呼吸や循環に与える影響

西田 圭佑 (国立循環器病研究センター 集中治療科)
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キーワード:

delayed sternal closure、respiratory system、hemodynamics

小児先天性心疾患手術では、循環不全や凝固障害で手術中の閉胸が困難な場合、delayed sternal closure (DSC)が選択される。DSCの最も重大な合併症は感染症で、開胸期間延長は感染症リスク増加と関連し、4日以上で有意に増加する。他に開胸期間延長は人工呼吸器離脱失敗とも関連する。合併症を防ぐためには適切なタイミングでの早期閉胸が望ましい。そのタイミングを見逃さないためには、閉胸が呼吸や循環に与える影響を集中治療医が十分理解しておく必要がある。 閉胸が呼吸や循環に与える影響は胸腔内圧上昇を起点に説明できる。呼吸では胸腔内圧上昇により呼気経肺圧が低下し、無気肺が生じやすい。無気肺による肺容量低下は肺血管抵抗(PVR)を上昇させるため、特にPVR上昇が問題となる症例で注意する。無気肺予防にはPEEP増量が有効である。循環では胸腔内圧上昇により拡張障害と前負荷低下が生じる。前負荷はPEEP増量によっても低下する。拡張障害を有する心臓は前負荷への耐容能が低く、心室拡張末期圧が上昇しやすい。心拍出量を増加させるには心外膜ペーシングによる心拍数上昇や強心薬の併用が効果的である。また、拡張障害で一回拍出量が制限されている場合、脈圧が出にくいため血管抵抗の過度な低下に注意する。さらにDSC施行時はunstressed volumeが不足していることが多く、過度な麻酔深度によりstressed volumeを急激に喪失するため注意する。これら病態生理学的影響に関して、当日は自施設データを用いて解説する。 「いつ安全に閉胸できるのか」という問いに明確な指標はなく、チームで協議しながら判断するしかない。しかし上述のようなDSCが呼吸や循環に与える影響を理解することで、適切なタイミングで安全に閉胸できるケースは必ず増加する。そうした成功体験の蓄積が開胸期間短縮と成績向上に寄与すると考える。