講演情報

[II-OR22-04]ダウン症候群に特異的な肺高血圧症の病態メカニズム解明

上田 和利, 石田 秀和, 吉原 千華, 上山 敦子, 橋本 和久, 成田 淳, 石井 良, 廣瀬 将樹, 北畠 康司 (大阪大学大学院医学系研究科小児科学)
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キーワード:

ダウン症候群、肺高血圧、DYRK1A

【背景と目的】先天性心疾患を伴うダウン症候群 (DS)が肺高血圧 (PH)を合併しやすいことはよく知られている。DSにおけるPHの発症には心内シャントによるshear stressの増加や呼吸器併存症による低換気など様々な病因が関与しているとされており、血管内皮機能不全も一因と考えられている。我々は以前、DS患者由来iPS細胞を用いてDYRK1A / PPARG / EGR1経路が肺血管内皮細胞の機能不全に関与しており、この経路がDS特異的なPH発症に中心的な役割を果たしていることを報告した。本研究の目的は、DSモデルマウスであるTs1CjeにおけるPH発症の分子学的な病態メカニズムを解明し、DSに特異的なPH治療薬を確立することである。【方法】Ts1Cje マウスではマウス16番染色体上のDYRK1A を含む領域がトリソミーである。PHモデルの作成には、低酸素負荷にSU5416投与を加える方法を採用した。PHは右心室/左心室収縮期血圧の測定、右心室/左心室重量の測定、Elastica Van Gieson染色や免疫染色による肺動脈の組織学的所見により評価した。また、レーザーマイクロダイセクションで新鮮凍結切片から肺血管の細胞を採取し、RNAを抽出後にRT-qPCR法によりEGR1、PPARGの発現を評価した。【結果】負荷後のTs1Cjeマウスでは、野生型マウスよりも右心室/左心室収縮期血圧が上昇し、より重度のPHが誘発された。病理学的には中膜肥厚などの血管リモデリングが認められた。免疫染色やRT-qPCR法では、PHを呈したTs1CjeマウスにおいてEGR1の発現増加、PPARGの発現減少が示された。【結論】動物モデルにおいてもiPS細胞と同様にDYRK1A / PPARG / EGR1経路がDS特異的なPH発症の中心的な役割を担っていることが示された。現在、PPARG/EGR1経路を調節する候補薬を用いて、治療効果の評価を行っている。