講演情報

[II-P02-3-07]アントラサイクリン投与11年後に高度の心機能低下をきたし、抗心不全治療が奏効した、がん治療関連心筋障害(CTRCD)の1例

小山石 隼, 橋本 礼佳, 三浦 文武, 嶋田 淳, 北川 陽介 (弘前大学 医学部 小児科)
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キーワード:

がん治療関連心筋障害、アントラサイクリン系薬剤、抗心不全治療

【緒言】小児を含めたがん治療に用いられるアントラサイクリン系の薬剤は、用量依存性にがん治療関連心筋障害(CTRCD)を引き起こすが、その多くは投与1年以内の発症とされている。しかし、遠隔期に発症する症例も一部に認める。【症例】17歳男児。6歳時にT細胞性急性リンパ性白血病と診断され、ピラルビシン、シクロホスファミドを含む化学療法で寛解し、全身照射(12Gy)を含む前処置の後に非血縁臍帯血移植が行われた。以後、寛解が維持されていたが、17歳時に易疲労感・息切れなどの症状が出現し、NT-proBNP(5290 pg/ml)の上昇と、心エコーでの左室拡大・著明な左心機能低下(LVEF 12%)を認め、諸検査からCTRCDと診断された。利尿剤・ACE阻害薬(後にARNIへ変更)・β遮断薬による治療で症状は速やかに改善した。NT-proBNP・左心機能も徐々に改善が得られ、治療開始6ヶ月後にNT-proBNPは正常化し、10ヶ月後にLVEFは55%まで改善した。【考察】アントラサイクリン系の薬剤投与から10年以上経過した後のCTRCDの報告は散見されるが、本症例が11年前に投与されたピラルビシンの総投与量は、210 mg/m2(ドキソルビシン換算 130 mg/m2)と比較的低用量だった。ドキソルビシン 400 mg/m2の投与で心機能障害の発生頻度が3-5%とされるなか、本症例が比較的低用量にも関わらず10年以上の歳月を経てから高度な左心機能低下をきたした要因としては、シクロホスファミドや放射線治療の併用、治療時の年齢(15歳未満)などが考えられた。また、早期発見と治療薬の進歩により、CTRCDによる心筋障害の予後は、以前よりも改善傾向にあるとされている。【結語】心毒性を有する抗がん剤を投与した患者に対する心血管系のフォローアップは、抗がん剤の投与量に関わらず長期に行われるべきであり、CTRCD発症後でも抗心不全治療が非常に奏功する場合がある。