講演情報

[II-PD7-1]ACHDにおける心不全:拡張障害を中心に

石津 智子 (筑波大学 医学医療系 循環器内科)
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キーワード:

心不全、拡張障害、うっ血

ACHDでは心不全の合併が多くみられ、特に拡張障害の早期診断と病態理解は極めて重要である。心筋の拡張機能は、能動的弛緩(active relaxation)と受動的コンプライアンス(passive compliance)に大別される。能動的弛緩は収縮に要するATPの約3倍のエネルギーを必要とし、不全心筋では最も早期に障害を受ける。弛緩遅延が生じると、特に心拍数が増加した場合、弛緩が完了する前に次の収縮が開始され、心筋長の不足によりフランクスターリング機序が破綻し、収縮能が低下する。頻脈下では、心拍数110/分程度からこの現象が起こりうる。加齢が弛緩能の低下を助長するが、これに対する有効な治療法は存在せず、頻脈や不整脈の管理が極めて重要となる。一方、受動的コンプライアンスは心筋の構造により規定され、心筋肥大、線維化、病的心外膜などが原因となる。ACHDでは、小さな心腔に相対的に過剰な血流が流入し拡張末期圧が上昇するという機序も加わる。受動的硬さに対しても有効な薬物治療は限られ、利尿薬や血流転換術による前負荷の軽減が主な治療となる。ひとたび低下したコンプライアンスは回復困難であり、予防としての後負荷軽減による肥大や線維化の進行抑制が重要である。拡張機能障害の診断には、心内圧測定を伴うカテーテル検査が基本となる。血清マーカーとしては、BNPやNT-proBNPが拡張末期圧や心室応力の指標として有用である。心エコー図検査では、弛緩能を評価する早期拡張指標や、充満圧上昇を反映する構造的・血流動態的指標を用いるが、先天性心疾患においては健常者基準値の適用が困難であり、経時的変化の把握が重要となる。本シンポジウムでは、具体的な症例を交えつつ、ACHDにおける心不全の病態としての拡張障害の重要性について概説する。