講演情報

[II-SY5-3]小児肥満と心血管病変

吉永 正夫1,2 (1.国立病院機構 鹿児島医療センター 小児科, 2.医療福祉センター オレンジ学園)
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キーワード:

小児肥満、診断基準、運動療法

肥満を含めた生活習慣病の治療の難しさは、治療者と受療者の治療開始基準がかみ合わないことにある。1. 開始時期 肥満形成時期は胎児期、adiposity rebound期、思春期と言われてきた(Dietz, Am J Clin Nutr, 1994)。日本では若干異なっている。乳児期にBMIが急速に増加する群、および小学生時に持続的にBMIが増加する群は腹囲、収縮期血圧、LDL-コレステロール、インスリン値が他群より有意に高くhigh risk群になる(Yoshinaga, Pediatr Int, 2023)。若年程治療効果が高いこと、採血を含めた検診が可能なことを考えると小学生低学年期に検診を行い、high risk児の抽出、治療を行うことは理にかなっている。2. 検査値 検査値を低い方から累積していくグラフ(逆累積パーセンタイルグラフ)を作成し、回帰直線を引くと、直線が急峻に傾く点(変曲点)が存在する。変曲点以降は異常値に傾いていくので変曲点をcut-off値と設定できる。現在のメタボリックシンドロームの腹囲のcut-off値は小学生75cm、中学生80 cmであるが、1679人のデータに基づいて上記で設定すると男女とも6-8歳60cm、9-11歳70cm、12-15歳80cmと年齢相応のデータになる。この方法で全ての項目でのCut-off値を作成可能である(Miyazaki, Circ Rep, 2024)。3. 容易で実行可能な治療方法 治療効果が最大になるのは、受領者が肥満を解消したいと受診した時になる。受診時に如何に有効な指導ができるか、になる。現在の世界の主流は中等度・強度の運動を60分/日、1週間に数回である。現在の日本の実情では無理であろう。休日の1日1万歩の散歩で十分な効果が得られることがrandomized studyで示されている(Yoshinaga, Pediatr Int, 2020。実臨床でも131人の小児肥満(平均年齢10±2歳、肥満度46±20%)に対して15±13%の肥満度減少を認め、治療成功率は68%である(Miura, 投稿中)。最近の論文での成功率(38.4%, Putri, JAMA Pediatr, 2025)よりはるかに高い。