講演情報
[II-SY5-4]小児脂質異常と将来の心血管疾患のリスク
○深澤 隆治1,2, 阿部 正憲2, 渡邉 誠2, 鈴木 伸子1,2, 橋本 康司2, 橋本 佳亮2, 嶋田 香苗2, 泉田 健介2 (1.福寿会病院小児科, 2.日本医科大学小児科)
キーワード:
小児脂質異常、心血管疾患、頸動脈内膜中膜肥厚
家族性高脂血症による脂質異常に関しては早期動脈硬化症との関連が確認され、治療方針も確立している。しかし、日常的診療で多く経験する小児期の脂質異常は無症候性であることが多く、治療エビデンスも少ないことから臨床的対応が遅れがちである。近年大規模前向き研究が発表され、小児期の脂質異常が成人期の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)発症と有意に関連することが明らかになってきた。NEJM 2022に報告されたi3C研究では、BMI、血圧、脂質、喫煙の5項目から構成される小児期の複合リスクZスコアが、35年後の心血管死亡や非致死的イベントの発生率と強く相関することが示された。さらに、Wuら(Circulation 2024)は、non-HDLコレステロールがLDLコレステロールよりもASCVD予測能に優れており、特にLDL-Cが正常でもnon-HDL-Cが高値の群ではリスクが顕著に増加することを報告した。non-HDL-Cは空腹時採血を必要としない実用性の高い指標であり、小児スクリーニングへの応用が期待される。加えて、頸動脈内膜中膜厚(cIMT)は小児期の高血圧、肥満、インスリン抵抗性といったリスク因子と相関し、早期血管障害のマーカーとして注目されている。小児においても高血圧や内臓脂肪の増加がcIMTの有意な増加と関連すると報告されている。さらに、Karapostolakisら(2021)は、家族性高コレステロール血症を有する小児において、スタチン治療によりcIMTの進行が抑制される可能性を示唆している。今回これらの知見をもとに、小児脂質異常が将来のASCVDに与える影響と、介入開始の適切なタイミング、さらにはnon-HDL-CやcIMTを含む包括的なリスク層別化の意義についてレビューし、実臨床への応用と課題について考察する。