講演情報
[III-CSY4-1]先天性無脾症候群における感染症予防および重症感染症罹患に関する疫学研究
○上野 健太郎 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 小児科学分野)
キーワード:
無脾症候群、予防接種、ガイドライン
【背景】先天性無脾症候群は、内臓錯位症候群(右側相同)を伴うことが多く、生来の脾機能低下が特徴である。脾臓での自然抗体産生がないため、肺炎球菌などの莢膜細菌による感染が急激に重症化し、致死的な経過をたどることがある。しかし、本邦には具体的な診療指針がなく、予防接種や抗菌薬の予防内服は主治医や医療機関の裁量に委ねられている。【方法】この現状と課題を明らかにするため、2021年に全国の小児循環器専門医修練施設に調査を実施した。さらに2024年、日本小児感染症学会監修のもと、小児循環器学会を含む9学会合同で「免疫不全状態にある患者に対する予防接種ガイドライン2024」を策定した。【結果】調査では、24施設(20.3%)が莢膜細菌感染症の経験を報告し、肺炎球菌が最も多い起因菌であった。また、「発熱時対応」「抗菌薬の予防内服」「予防接種」「患者教育」において施設間で診療方針が大きく異なり、統一した指針の必要性が示唆された。ガイドラインでは、無脾症患者に対するワクチン接種の重要性を明記した。①侵襲性肺炎球菌感染症のリスクが高いため、PCV13/PCV15/PCV20接種後にPPSV23を接種し、2回目のPPSV23は5年後に行うことを推奨、②侵襲性髄膜炎菌感染症の予防として髄膜炎菌ワクチンの接種を推奨、③健常者向けのすべてのワクチン接種も推奨された。【考察】本研究により、日本における無脾症患者の感染管理に関する指針が初めて示され、予後改善に寄与する可能性が高い。現在、ガイドライン策定前後のレジストリ研究を進めており、ワクチンの有効性と安全性を検証するとともに、「発熱時対応」「抗菌薬の予防内服」「患者教育」に関する指針の策定を目指している。