講演情報

[III-CSY4-5]研究課題A:心筋細胞の1 型アンジオテンシン受容体と共益するβアレスチンを利用した新規新生児・乳児拡張型心筋症治療薬の開発

山田 充彦1, 前田 潤2, 瀬戸 達一郎3, 岡田 健次4, 瀧聞 浄宏5, 三浦 大6 (1.信州大学 医学部 発達薬理学研究グループ, 2.東京都立小児総合医療センター 循環器科, 3.信州大学 医学部附属病院 心臓血管外科, 4.神戸大学 医学部附属病院 心臓血管外科, 5.長野県立こども病院 循環器小児科, 6.東京都立多摩南部地域病院 小児科)
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キーワード:

小児心不全、AT1アンジオテンシン受容体、βアレスチンバイアスアゴニスト

【はじめに】アンジオテンシンIIの1型受容体(AT1R)は、細胞内でG蛋白質とβアレスチンを活性化して細胞機能を制御する。AT1Rは、成体マウスではGq/11蛋白質を介して心不全を誘発するが、幼若マウスではβアレスチンを介して陽性変力作用を生じる。後者は、マウスの誕生後日齢依存的に減衰し、卒乳後消失するので、心臓の子宮外環境適応のための循環補助作用と思われた。この作用の減衰は、βアレスチンの作用を仲介するカゼインキナーゼCK2α’の日齢依存的発現低下に由来した。βアレスチンを選択的に活性化するβアレスチンバイアスアゴニストTRV027は、離乳期までに~8割の個体が心不全死するヒト拡張型心筋症モデルマウスの生命予後を有意に改善した。TRV027は米国で成人急性心不全治療薬として開発され、高い安全性が証明されたが、有効性が証明されず上市されていない。【目的】TRV027が小児心不全治療薬となりうるかを検討すること【方法】成人と小児の心筋におけるβアレスチン下流の信号伝達因子の発現を検討する。【結果】2024年9月から信州大学と全国23施設による多施設共同研究が開始され、これまでに32小児検体と6成人検体が収集された。このうち1歳児検体10個、成人検体5個でのウエスタンブロッティングで、マウス同様CK2α’の発現はヒト1歳児心筋で成人心筋より有意に多かった。AT1Rの発現も同様であった。またAT1RのG蛋白質への作用には影響を与えず、βアレスチンへの作用を抑制するCOMPという細胞外蛋白質の発現が、成人では1歳児より有意に高いことも新たに判明した。【考察】成人では無効であったTRV027が、小児では有効であり新規小児心不全治療薬となる可能性がある。TRV027の有効年齢域を確定するために、今後より広範な年齢の検体を収集解析していく予定である。