講演情報

[III-OR32-02]福山型筋ジストロフィー患者由来ヒトiPS細胞分化心筋を用いた心筋症発症メカニズムの解明

福村 史哲, 馬場 志郎, 久米 英太朗, 赤木 健太郎, 平田 拓也, 吉田 健司, 滝田 順子 (京都大学 大学院 医学研究科 発達小児科学講座)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

福山型筋ジストロフィー、心筋症、iPS細胞

【背景】福山型筋ジストロフィー(FCMD)は進行性の神経筋疾患であり、FKTN遺伝子の変異により発症する。FCMDの生命予後を規定するのは呼吸筋力低下による重度の呼吸不全と心筋症である。FKTN遺伝子のmRNA産物によって転写されるFukutinタンパクは細胞膜タンパクであるα-ジストログリカンの糖鎖を伸長し、その異常によって細胞脆弱性が生じると考えられるが、心筋症との関わりは不明である。【目的】ヒトiPS細胞(iPS)を用いたin vitroの実験系により、膜タンパク上の糖鎖形成不全と心筋症発症メカニズムの関連を解明する。【方法】FCMD患者、健常者 各々からiPSを樹立した(F-iPS、C-iPS)。また、F-iPSをCRISPR-Cas9を用いて遺伝子修復したコントロール株(C-F-iPS)も作製した。まず、αジストログリカンに連なる糖鎖の伸長について、iPS由来分化心筋細胞間で糖鎖抗体の蛍光輝度を比較して検証した。さらにFCMD心筋症の表現型を確認するため、単細胞に分離した状態での細胞サイズ、拍動数を測定し、Multi-electrode array systemを用いて擬似的なQT時間であるField potential duration (FPD)を算出した。【結果】F-iPS由来心筋(F-CM)は、C-iPS由来心筋(C-CM)、C-F-iPS由来心筋(C-F-CM)と比較して糖鎖の伸長は有意に低下していた(C-CM vs. F-CM: p=0.0032, F-CM vs. C-F-CM: p=0.0013)。細胞サイズはC-CMとF-CMに有意差なく(p=0.61)、F-CMとC-F-CMではC-F-CMが有意に大きかった(p=0.030)。拍動数はC-CM 62±22 bpm、F-CM 50±23 bpm、C-F-CM 60±30 bpmであり、F-CMで少なかったが有意差はなかった。FPDをFridericia法により補正した値はC-CMで 241±29 ms、C-F-CMで 236± 41 msに対し、F-CMでは 283±46 msとより長かったが、有意差は認めなかった(C-CM vs. F-CM: p=0.13, F-CM vs. C-F-CM: p=0.11)。【考察と結論】現在のところ統計的な有意差はないが、本実験系でFCMD患者の心筋脆弱性が再現される可能性が示唆された。