講演情報
[III-OR32-03]全エクソン解析再評価による先天性心疾患の遺伝学的再構築
○小川 陽介1,2,3, 河島 裕樹1, 土居 秀基1, 西木 拓己1, 小澤 由衣1, 水野 雄太1, 榊 真一郎1, 白神 一博1, 益田 瞳1, 松井 彦郎1, 犬塚 亮1 (1.東京大学医学部附属病院 小児科, 2.東京大学大学院医学系研究科 小児科学, 3.東京大学大学院医学系研究科 遺伝情報学)
キーワード:
先天性心疾患、全エクソン解析、バイオインフォマティクス
【背景】先天性心疾患(CHD)は遺伝的要因が少なからず関与するにも関わらず、全エクソン解析(WES)による遺伝学的診断率は低い。しかし、近年の心血管発生研究の進展に伴い、同じWESデータでもバリアントの病原性評価は経時的に変化しているため再評価が必要である。【方法】2012年から2018年に採取したCHD症例のWES結果を新規パイプラインで再解析した。CHDに関連する既知遺伝子を対象に、(1)Pathogenic/Likely pathogenic(P/LP)の再評価、(2)バイオインフォマティクスツール(BIT)による構造異常(Manta/GATK-gCNV)やスプライス異常(SpliceAI)の予測、(3) Variant of unknown significance(VUS)保有率の群間比較および臨床像の再検討を行った。【結果】対象は102症例(円錐動脈幹異常(CTD) 37例、大血管転位20例、内臓錯位18例、その他27例)。P/LP診断率は検体採取当時5%に対し、今回10%(線毛遺伝子3例、RAS/MAPK 3例、その他4例)に増加した。BITによる評価ではTMEM260部分欠失(総動脈幹症)やELN(大動脈弁上狭窄症)、NODAL(完全大血管転位症)のスプライス異常が検出された。また、NOTCH1などのCTD関連14遺伝子のVUSを対象とした1症例あたりのバリアント保有率は、CTD群 0.30、非CTD-CHD群 0.16、健常対象群 0.03と有意にCTD群で高かった(p=0.02)。このうちJAG1のVUSを持つ一例では臨床像の再検討によりAlagille症候群の臨床診断に至った。【考察】WES再評価による遺伝学的診断率は向上し、その要因として近年の (1)新規原因遺伝子の同定(TMEM260, MYRF)や(2)解析技術の進歩が寄与していた。また1症例では病原性が判断できないバリアントでも集団レベルではCHDに集中しており、エクソンレベルでわかるCHDの遺伝学的基盤の裾野はさらに広いことが示唆される。このような探索はCHDの病因解明に寄与するのみならず、基礎疾患の同定による臨床的なプラクティスへの還元という点でも価値がある。