講演情報
[III-P01-2-06]思春期に達してから治療を行った孤立性右肺動脈近位部欠損の一例
○福島 直哉1,2, 前田 潤1, 吉村 幸浩3 (1.東京都立小児総合医療センター 循環器科, 2.平塚市民病院 小児科, 3.東京都立小児総合医療センター 心臓血管外科)
キーワード:
孤立性右肺動脈欠損、高地肺水腫、肺高血圧
【背景】 右肺動脈近位部欠損は, 主肺動脈と右肺動脈遠位部の間に血管構造物が欠損している形態である. 多くは心内奇形を合併しない「孤立性」で, 新生児・乳児期に明らかな症状を呈することが少なく, 時間経過とともに肺高血圧, 高地肺水腫, 肺出血, 繰り返す気道感染などの合併症を契機に診断に至ることが多い. 【経過】 15歳のROHHAD症候群の男性. インフルエンザ感染から呼吸不全となり非侵襲的陽圧換気療法が行われ, 回復後も肺高血圧が残存し当科に紹介となった. 生後2か月時に長時間の飛行を契機に咳嗽遷延, 13歳時に高地に移動した際に高度の低酸素血症・呼吸不全となり他院で挿管・人工呼吸器管理が行われ, 孤立性右肺動脈近位部欠損と診断された既往がある. 心臓カテーテル検査で左肺動脈の平均圧 30mmHg (酸素負荷で 27mmHg), 肺血管抵抗値 9.4U・m2 (酸素負荷で 8.4U・m2)であった. 将来的な合併症リスクの軽減目的に 8mmの人工血管(リング付きePTFE)を使用した血行再建術(主肺動脈-右肺動脈バイパス術)を行い, 術後3年時に平均肺動脈圧 21mmHg (右18, 左 22), 肺血管抵抗値 2.2U・m2 (右 3.1, 左7.9)と肺高血圧の改善を確認した. しかしながら, 肺血流シンチグラフィーでは左側 80%に対して右側 20%で, レントゲン上の右肺低形成の程度は術前から改善が見られていない. 【考察】 思春期以降に血行再建術が行われた報告例は確認できる範囲で 1例のみである. 本症例では, 残存肺高血圧は軽度と改善し, 将来的な肺出血や高地肺水腫のリスクは軽減できたと考えられるものの, 右肺の低形成所見は術前と大きくは変わらなかった. 生後6か月を経過した症例で肺動脈形成が行われても術後に肺実質の発育が見られなかったとする報告もあり, 本症例も合致する. 加えて, 術中は著明に増生した側副血管からの出血処置に難渋したことから, 乳児早期に本症と診断し外科的介入を積極的に行うことが望ましいと考えられる.