講演情報

[III-P01-2-08]小児期片肺循環は肺高血圧症発症に寄与するか

西村 和佳乃, 松尾 悠, 工藤 諒, 高橋 卓也, 齋藤 寛治, 桑田 聖子, 佐藤 啓, 滝沢 友里恵, 中野 智, 齋木 宏文 (岩手医科大学 小児科学講座 小児循環器病学)
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キーワード:

片肺、肺高血圧、悪性腫瘍

背景:成人領域では肺疾患に伴い肺切除がしばしば行われ、1/3の症例が術後5年までに肺動脈圧上昇を示すと報告されている。物理的な肺血管床減少に伴う変化と考えられてきたが、肺高血圧を認めなくても病理組織では特異的に血栓性肺動脈症と肺動脈血管リモデリングを来すことが明らかとなってきた。一方、小児期の片肺循環は成長の過渡期にあり、成長に伴う健側肺の発育や肺血流過多の影響は不明な点も多い。片肺循環は小児期からの経過においても肺高血圧症発症の温床となるという仮説を検証した。方法:肺動脈統合術適応症例を除く、片肺低形成または切除例の臨床経過を解析した。結果:内訳は先天性片肺低形成4例 (先天性一側肺動脈高度狭窄1例、有意な短絡を伴わない患側肺低形成のシミター症候群 3例)、片肺切除後2例、片側肺静脈閉塞後肺低形成1例。平均年齢は16.9歳(15-19歳)で2例が右側健側肺症例であった。片肺循環の成立は平均2.9歳 (0-13歳)で、観察期間中に右室推定収縮期圧35mmHgを超えた症例は4例 (57%, 35-130mmHg)であり、平均11.5歳(5-15歳)で肺高血圧を診断した。7例中5例(71%)は片肺循環の成立ののち平均7年 (4-10年)後から右室圧上昇傾向を示した。右室圧35mmHg以上の症例は35mmHg未満の症例と比較しBNP (287±320, 14.6±12.8 pg/ml, p = 0.013)、NT-pro BNP(1626±2635, 49±34 pg/ml, p = 0.033)が高かったが、左室駆出率 (64.6±3.1, 63.5±0.1 %), 左室拡張末期径 (90±13, 100±7 %N), 左房容積指数 (21.4±4.9, 26.9±2.3 ml/m2)に差はなく、肺循環障害に伴う右心系負荷の影響が示唆された。結論:成長過程にある小児期の片肺循環でも経過観察中に肺動脈圧に上昇傾向を認める症例が存在する。生下時から片肺低形成であった4例のうち、2例は肺高血圧症に伸展したが、2例は10年以上右室圧上昇を認めず、機序の解明とともに、長期的な循環評価も不可欠である。