講演情報

[III-P01-5-01]小児心臓血管術後の侵襲性トリコスポロン症による縦郭炎の一例

権守 延寿1, 祖父江 俊樹1, 手繰 優太2, 森 雅啓3, 谷口 公啓4, 野崎 昌俊4, 渡邉 哲5, 津村 早苗2, 青木 寿明3, 清水 義之1 (1.大阪母子医療センター 集中治療科, 2.大阪母子医療センター 心臓血管外科, 3.大阪母子医療センター 小児循環器科, 4.大阪母子医療センター 周産期小児感染症科, 5.千葉大学 真菌医学研究センター)
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キーワード:

Trichosporon inkin、トリコスポロン、縦郭炎

【背景】トリコスポロンは、環境中に広く分布しヒトの咽頭や皮膚、消化管からも分離される酵母様真菌である。複数の関連疾患が知られ、免疫抑制状態や侵襲的医療処置後に侵襲性感染症を引き起こす。小児心臓血管術後における真菌性縦隔炎は非常に稀であるが高い死亡率を伴い、カンジダ属菌に因る報告が過半数を占める。本報告では、Trichosporon inkinによる縦隔炎を発症した小児症例を報告し、診断と治療の過程を共有する。【症例】左室型単心室症、大動脈離断症に対し日齢1に両側肺動脈絞扼術を施行後の生後1か月男児。Norwood手術、体肺動脈短絡手術を施行し体外式膜型人工肺を装着下に集中治療室に帰室した。術後14日目にシャント血管吻合部の離開に因る出血性ショックとなり、抜去された人工血管断端からGram染色により酵母様真菌が確認された。カンジダ属菌を疑いMCFGによる治療を開始した。術後15日目に培地のコロニー形態からトリコスポロン属が示唆されたため、L-AMBの併用を開始した。術後16日目にシャント血管再造設と体外式膜型人工肺の離脱を試みたが、縦隔内への感染波及に伴い血管壁が脆弱化し手術加療が不可能な状態であり、集中治療室に帰室後に死亡確認に至った。その後、院外施設でのITS塩基配列解析により、血液培養、人工血管断端培養からの分離菌はT. inkinと同定され、MIC (mg/L) はMCFG >16、AMPH-B 0.5-1であった。【考察】小児心臓血管術後のトリコスポロン感染に伴う縦郭炎の報告は極めて稀であり、致死率は高いとされる。本症例は適切な治療下においても重篤な経過を辿っており、予防および早期診断の重要性が示唆された。【結論】T. inkinによる縦隔炎は小児心臓血管術後の非常に稀な合併症であるが、重篤な結果に陥ることがあるため、本症例の経験を共有することは重要と思われた。