講演情報

[III-P03-1-08]当院における左房性三心房心(Cor triatriatum sinister;CTS)10例の治療経験

森 佳織1, 立石 実1, 中野 裕介2, 渡辺 重朗2, 河合 駿2, 正本 雅斗2, 五十嵐 大二2, 山本 崇2, 齋藤 綾1 (1.横浜市立大学附属病院 心臓血管外科, 2.横浜市立大学附属病院 小児科)
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キーワード:

三心房心、Cor triatriatum sinister、肺高血圧

【背景】左房性三心房心(CTS)では副腔と真腔との交通孔狭窄により肺うっ血や肺高血圧(PH)を来す事が知られるが, 至適な手術時期は明らかではない.【方法】2009~2024年に当院で手術をしたCTS10例を対象とし, 術前PHの有無で術前所見や治療成績を比較した. 本研究では術前エコーでの右室圧が左室圧5割以上の症例をPH(+)とした.【結果】全症例における手術時年齢と体重の中央値は8ヶ月[IQR, 4-12カ月], 6.8kg[IQR, 4.9-8.8kg]であった. PH(+)群は6例で, 手術時体重は5.7kg[IQR, 4.9-6.5kg], Lucas-Schmidt(L-S)分類はIB1が3例, IIIA2が1例で, 併存疾患はAVSD 2例, PAPVC 1例, PA/VSD+TAPVC(IIa)のmBTS後1例であった. PH(-)群は4例で手術時体重は13.3kg[IQR, 7.8-18.7kg], L-S分類はIAが2例, IB1が2例で, 併存疾患はVSD1例のみであった. 術前エコーでの交通孔の径と流入血流伝播速度(Vp)はPH(+)群で3.98±1.42mm, 2.2±0.9m/s, PH(-)群で8.13±3.32mm, 1.05±0.27m/sで, PH(+)群で交通孔が狭く(p=0.04), 血流速度が速い(p=0.03)傾向にあった. 緊急手術は2例あり, どちらもPH(+)群で術前ショックの症例であった. 術前ショックの1例が術中出血で死亡したが, 他9例の早期・遠隔期成績は良好であった. 同時に複合手術を行ったAVSD 2例を除いた8例の入院期間はPH(+)群で19±3.6日, PH(-)群で11±2.5日とPH(-)群でより良好な術後経過となる傾向にあった(p=0.03).【考察】PH(+)群は全例で乳児期に手術を要しPH(-)群よりも早期の手術を要する傾向にあった. 本研究ではL-S分類IAの2例がPH(-)群で, ASDの有無とPH発症に関連は示されなかった(p=0.85)が, 交通孔6.35mm以下(感度75%, 特異度100%, p=0.01), Vp1.25m/s以上(感度100%, 特異度75%, p=0.03)はPH発症と関連する可能性が示唆され,た. 交通孔が小さく血流速度が速い場合, 副腔からの肺静脈還流流出が妨げられてPHを来しやすいため, 早期手術を検討する必要があると考えられる.