講演情報

[II-SY6-2]診療の「見え方」が転換する肺循環研究 - 病理からメカノトランスダクションへ -

篠原 務, 竹中 颯汰, 安田 昌広, 木村 瞳, 小山 智史 (名古屋市立大学大学院 新生児小児医学)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

肺高血圧、病理、メカノストレス

出生後にダイナミックに変化する肺循環に魅了され、小児循環器医として肺高血圧の基礎研究に飛び込んだ。ベッドサイドでは肺動脈性肺高血圧症(PAH)における治療の限界を痛感し、その背景にある肺細動脈リモデリングの分子機序解明に取り組んだ。SUGEN-Hypoxiaラットを用いた研究では、エンドセリン拮抗薬マシテンタンによる肺血管リバースリモデリングの可能性と限界を示し(AJP Lung, 2015)、この経験は診療の中で肺血管を機能だけでなく病理として捉える視点を私にもたらした。その後、先天性心疾患に伴うPAH診療を通じて、血流というメカノストレスが血管を変えるという事実に出会い、シェアストレスに着目した肺循環研究に取り組んだ。近年のシミュレーション医学により左右短絡を伴う心室中隔欠損では、末梢肺動脈に病的高シェアストレスが生じることが示されており、この刺激がヒト肺動脈内皮細胞に内皮間葉転換を誘導すること、その背景にERG転写因子の低下が関与することを明らかにした。さらに、肺高血圧モデルマウスの肺血管内皮におけるERG維持は、肺血管リモデリングを抑制し得た(ATVB, 2025)。こうした知見は、従来の血管拡張療法とは異なる視点からの病態理解や治療標的の探索へとつながり、日常診療に病理に加え、メカノトランスダクションという新たな「見え方」をもたらした。臨床現場の「なぜ」「どうして」という問いに向き合い続けるためには、基礎・臨床研究との往還が不可欠である。本シンポジウムでは、迷いながら研究に向き合い、再び診療へ還元していく過程そのものを共有したい。研究は特別な人のためのものではなく、臨床に真摯に向き合うすべての医師に、診療の「見え方」を変える力がある。本学術集会においてその一歩を踏み出す勇気を、参加者と分かち合う場としたい。