セッション詳細
[SY19]シンポジウム19_精神病理学と生物学を架橋する計算論的精神医学:予測情報処理理論の可能性
2025年6月19日(木) 8:30 〜 10:30
F会場(神戸国際会議場 4階 403会議室)
司会:前田 貴記(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)、山下 祐一(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
メインコーディネーター:前田 貴記(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
サブコーディネーター:山下 祐一(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
メインコーディネーター:前田 貴記(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
サブコーディネーター:山下 祐一(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
精神病理学は、精神症状の精緻な記述に重きを置くが、記述するだけでは、「現象論」にとどまり、症状形成のメカニズムを扱う「機構論」にまで踏み込むのは困難である。精神疾患の病態を理解し、効果的な治療方略を確立するためには、現象を超えた機構的理解が不可欠である。たとえば、安永浩のファントム理論は、精神病理学から提案された優れた機構仮説の一例である。一方、生物学的精神医学の発展にもかかわらず、生物学の側からの機構論は未だに混沌としており、統一的な見取り図が欠如している。精神病理学と生物学の双方を架橋する新たな理論的枠組みが求められている。
近年、計算論的精神医学が、「機構論」を進めるための重要なアプローチとして期待されている。計算論的精神医学には、データ駆動型アプローチと理論駆動型アプローチとがあり(Yamashita,2020)、前者はビッグデータに基づくアプローチで、脳機能については不問(ブラックボックス)としているため、「機構論」は望めない。後者においては、脳機能を情報処理という観点でとらえるため、「機構論」について、理論の提唱とその実験を行うことができる。
生物学と精神病理学を架橋する機構論として有望視されているのが予測情報処理理論(predictive processing theory)である。その中で能動的推論(active inference)と予測符号化(predictive coding)という行動実験系が構築されている。予測情報処理理論では、脳機能の重要な特性は、外界についての内部モデル(internal model)に基づいて予測的に行動することであり、かつ新たなデータが得られたときに、予測誤差最小化の原則に従って、絶えず内部モデルを更新(学習)し、外界に適応していくこととしている。精神疾患は、この予測誤差最小化の機構が、それぞれ特異的な形式で異常が生じているために、外界に対して適応不全をきたしている状態とみなすことができる。統合失調症では、予測シグナルの遅延が生じることで、予測情報処理の不全を来し、多彩な体験症状・行動異常を呈していると説明できる(Okimura, 2023)。この予測情報処理理論では、内受容感覚も扱うことができ、身体症状症、アレキシサイミアなどの身体不調が前景の精神疾患の症状形成機構を説明する手がかりを提供する。また、外受容感覚との統合を通じて、身体と環境との相互作用に基づく病態理解を深めることが可能である。さらに、人工知能研究の進展に伴い、「集合的予測符号化」という新たな概念が提唱されている。これは、個体内に留まらず、集団内のコミュニケーションにも同様の計算原則が働くことを仮定し、言語を含むシンボル処理機能がどのように創発するかを説明する枠組みである。このアプローチは、社会的な機能やコミュニケーションを介した精神障害の病態の機構論を構築するための理論的基盤として重要な役割を果たす可能性がある。
本シンポジウムでは、精神病理学と生物学を架橋する機構論としての予測情報処理理論の可能性について現状と将来展望を議論する。
近年、計算論的精神医学が、「機構論」を進めるための重要なアプローチとして期待されている。計算論的精神医学には、データ駆動型アプローチと理論駆動型アプローチとがあり(Yamashita,2020)、前者はビッグデータに基づくアプローチで、脳機能については不問(ブラックボックス)としているため、「機構論」は望めない。後者においては、脳機能を情報処理という観点でとらえるため、「機構論」について、理論の提唱とその実験を行うことができる。
生物学と精神病理学を架橋する機構論として有望視されているのが予測情報処理理論(predictive processing theory)である。その中で能動的推論(active inference)と予測符号化(predictive coding)という行動実験系が構築されている。予測情報処理理論では、脳機能の重要な特性は、外界についての内部モデル(internal model)に基づいて予測的に行動することであり、かつ新たなデータが得られたときに、予測誤差最小化の原則に従って、絶えず内部モデルを更新(学習)し、外界に適応していくこととしている。精神疾患は、この予測誤差最小化の機構が、それぞれ特異的な形式で異常が生じているために、外界に対して適応不全をきたしている状態とみなすことができる。統合失調症では、予測シグナルの遅延が生じることで、予測情報処理の不全を来し、多彩な体験症状・行動異常を呈していると説明できる(Okimura, 2023)。この予測情報処理理論では、内受容感覚も扱うことができ、身体症状症、アレキシサイミアなどの身体不調が前景の精神疾患の症状形成機構を説明する手がかりを提供する。また、外受容感覚との統合を通じて、身体と環境との相互作用に基づく病態理解を深めることが可能である。さらに、人工知能研究の進展に伴い、「集合的予測符号化」という新たな概念が提唱されている。これは、個体内に留まらず、集団内のコミュニケーションにも同様の計算原則が働くことを仮定し、言語を含むシンボル処理機能がどのように創発するかを説明する枠組みである。このアプローチは、社会的な機能やコミュニケーションを介した精神障害の病態の機構論を構築するための理論的基盤として重要な役割を果たす可能性がある。
本シンポジウムでは、精神病理学と生物学を架橋する機構論としての予測情報処理理論の可能性について現状と将来展望を議論する。
[SY19-1]Sense of Agency研究:生物学との架橋をめざす実験精神病理学
○前田 貴記 (慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
[SY19-2]精神障害の機構論としての予測情報処理:計算論的精神医学の現在地と展望
○山下 祐一 (国立精神・神経医療研究センター)
[SY19-3]内受容感覚の予測制御機能と感情認識および制御困難
○寺澤 悠理 (慶應義塾大学文学部)
[SY19-4]集合的予測符号化に基づく心と言語のミクロ・マクロ・ループ
○谷口 忠大 (京都大学大学院情報学研究科)