セッション詳細

[SY55]シンポジウム55_回避・制限性食物摂取症の適切な外来診療:児童期から成人期まで

2025年6月19日(木) 15:45 〜 17:45
Q会場(神戸国際展示場 1号館 2階 展示室B)
司会:山下 達久(からすま五条・やましたクリニック)、髙宮 静男(たかみやこころのクリニック)
メインコーディネーター:永田 利彦(壱燈会なんば・ながたメンタルクリニック)
サブコーディネーター:山下 達久(からすま五条・やましたクリニック)
今日における摂食症は国、地域、性別、年代、社会階層と関係がなく、より一般的なものとなった。先進国の教育を受けた青年期女性のみが罹る文化結合症候群と考えられていた従来の視点は過去のものとなり、種々の精神病理を含む異種性の高いものとなった。児童精神科領域では、LaskとBryant-Waughにより、神経性やせ症や神経性過食症の診断基準に合致しない摂食の問題を分類するGreat Ormond Street Criteria(GOSC)が提唱され、食物回避性情緒障害、選択的摂食、機能性嚥下障害などとされてきたが、DSM-5以降の診断基準では、これらの概念は回避・制限性食物摂取症 Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder(ARFID)にまとめられた。ARFIDは、ボディイメージの障害がなく、(1)摂食や食物への関心の欠如、(2)食物の感覚的特徴(味覚、臭い、舌触り、温度、音、外見)に基づく回避、(3)摂食後の嫌悪的結果(窒息、嘔吐、腹痛など)に対する不安を背景として、体重減少、栄養不足、心理社会的機能の障害を生じる精神障害であり、有病率の性差が少なく、不安症、強迫症、神経発達症を併存しやすい。
幼児期や児童期に発症したARFIDの患者は小児科医や児童精神科医を受診するが、寛解せずに遷延化・慢性化したり、他の摂食症に移行したり、未受診のまま不安症や強迫症を発症してしまうことも多い。ARFIDの有病率は高く、不安症、強迫症、神経発達症を伴う青年例・成人例を診療する地域の専門家、特に外来で診療する一般精神科医は患者がARFIDを併存する可能性に鋭敏であらねばならず、身長と体重を測定し、栄養状態を評価する診療体制をシステマティックに構築して、ARFIDを的確にスクリーニングする必要がある。
家族をベースとする治療 Family Based Treatment(FBT)は摂食症に対して家族同席面接の構造でなされる精神療法であり、不可知論の立場から病因論を棚上げし、摂食症は家族病理であるとしてきた従来の立場から家族を開放しつつ、徹底的に外在化し、両親を協力させ、食行動と栄養状態に焦点づけて摂食症を寛解させる。この治療モデルはFBT-ARFIDとしてARFIDにも応用されつつあるが、症状が慢性化した成人例には効果が乏しいと考えられており、異なる治療モデルが必要とされている。本シンポジウムは、まず、ARFIDを含めた摂食症概念の概観から始まり(磯部昌憲)、摂食症と神経発達症の併存例が提示される(小坂浩隆)。神経発達症併存例に対するFBT-ARFID(鈴木太)、青年期・成人期ARFID、摂食症に対するプロトタイプアプローチ(永田利彦)が紹介され、児童期・青年期・成人期におけるARFIDの診断と治療が総合的に討議される。なお、本シンポジウムでは個人情報保護が必要な特定の症例報告を含まず、倫理委員会承認は不要と判断した。

[SY55-1]回避・制限性食物摂取症(ARFID)の概観:診断と治療の現状と課題

磯部 昌憲 (京都大学医学部附属病院精神科神経科)

[SY55-2]摂食症と神経発達症

小坂 浩隆, 眞田 陸, 幅田 加以瑛, 水野 有香, 牧野 拓也 (福井大学医学部精神医学)

[SY55-3]回避・制限性食物摂取症と神経発達症の併存例に対する家族をベースとする治療

鈴木 太1,2 (1.上林記念病院こども発達センターあおむし, 2.福井大学子どものこころの発達研究センター地域こころの支援部門)

[SY55-4]青年期・成人期の回避・制限性食物摂取症

永田 利彦 (壱燈会なんば・ながたメンタルクリニック)