セッション詳細

[SY83]シンポジウム83_日本における精神療法:エビデンスかアートか

2025年6月20日(金) 8:30 〜 10:30
L会場(神戸ポートピアホテル 本館 B1階 偕楽2)
司会:新村 秀人(大正大学臨床心理学部)、北西 憲二(北西クリニック/森田療法研究所)
メインコーディネーター:新村 秀人(大正大学臨床心理学部)
サブコーディネーター:北西 憲二(北西クリニック/森田療法研究所)
今日の精神医学におけるEBM重視の流れの中で、精神療法にも「エビデンス」(科学的根拠)が求められるようになっている。しかしながら、ここで言うエビデンスとは、精神療法の過程をプロトコールとして定式化(マニュアル化)した上で、症状を評価し、その改善をアウトカムとして得られたものであり、精神療法の過程に必ず含まれる、症状を超えた測りようのない変化や、マニュアル化できない部分については、適切に評価されていないと考えられる。そのため、こうした意味でのエビデンスが十分でないとみなされた精神療法は、十分な治療効果をもっているにもかかわらず、ガイドラインに収載されることもなく、治療者から顧みられなくなってしまう恐れがある。
すなわち、修練を経て技を身に付け、その場所で展開する、個別性の高い、「アート」としての精神療法は、エビデンスになじみにくいと考えられる。また、エビデンスをつくるのは事象を「分ける」営みであるが、日本には、ものごとを「分けない」という伝統的思考様式がある。
日本における精神療法は、「エビデンス」と「アート」とでどうバランスをとればよいのだろうか。また、「アート」としての精神療法には、どのような「エビデンス」を考えればよいのだろうか。オンライン診療(場所性が薄い)、メタバース空間でのアバター(身体がない)、ロボット(身体性が薄い)、AI(人間でない)も参照しつつ考えたい。
田所は、より短時間で施行可能でより治療効果の高い精神療法を手にするために、本当に通常治療(treatment as usual)との比較が必要なのかどうかを再検討することにより、様々な精神療法同士の比較を通じてより良い精神療法を求める過程自体がエビデンスになり得る可能性について論じる。
加藤は、脳科学やロボット・メタバースを駆使したエビデンス創出のための精神医学研究に従事しつつ最もエビデンスの世界から遠いと思われがちな精神分析家として臨床に従事している。欧米的な「分ける(分かる)」に重きを置く狭義のエビデンスの限界に言及し、従来アート(芸)としか言葉にしようがなかった「分けない(分からない)」世界にあり続ける存在としての日本の精神療法の意義を考察する。
林は、鈴木大拙の「日本的霊性」を参照枠として、ユング心理学や浄土思想、仏教美学(柳宗悦)における「分けない(分けられない)」あり方と、「西洋的霊性」である(と林が考える)エビデンスにおける「分ける」あり方という対比に着目し、日本人と精神療法の親和性について検討する。
新村は、体験・動き・身体性を重視するアートの面が強い森田療法が、あるがままの態度など評価が困難な治療的変化をエビデンスに落とし込むためにどのような工夫をしたか、森田療法のエビデンスを作るためのマニュアル化の試みにおける難しさについて考える。

[SY83-1]「通常治療との比較パラダイム」をぶち壊そう!

田所 重紀 (札幌医科大学医学部神経精神医学講座)

[SY83-2]心を揺さぶられるアート(症例)から始まる精神分析のエビデンス創出:エビデンス・コンプレックスの打開

加藤 隆弘 (北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野精神医学教室)

[SY83-3]精神療法の本質について-分析心理学の立場からの考察

林 公輔 (学習院大学文学部心理学科)

[SY83-4]森田療法のアートをどのようにエビデンス化するか

新村 秀人 (大正大学臨床心理学部)

[指定発言]指定発言

北西 憲二 (北西クリニック、森田療法研究所)