セッション詳細

[SY107]シンポジウム107_矯正医療における精神科医の役割

2025年6月21日(土) 10:45 〜 12:45
D会場(神戸国際会議場 4階 401会議室)
司会:池田 伸(広島刑務所)、中野 温子(浪速少年院)
メインコーディネーター:池田 伸(広島刑務所)
サブコーディネーター:中野 温子(浪速少年院)
「矯正医療」とは、犯罪や非行によって刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所などの矯正施設に収容されている被収容者に対する保健衛生及び医療の提供の総称である。一般社会においては、個々人の健康管理は基本的にその個人の責任で行われており、医療機関等における診療についても私的な治療契約に基づいてなされるのが原則である。一方で、矯正施設の被収容者は法律により行動の自由を制限され、施設内での生活全般にわたって様々な規制を受けることになるので、自己の健康管理を自身の力だけで行うのは困難である。したがって、強制的に身柄を収容する矯正施設は、被収容者の健康管理の責任を負うことになる。そして「矯正医療」の理念には、被収容者の単なる健康管理だけでなく、彼/彼女らを改善更生させ、健全な社会人として社会復帰に導くことが含まれる。各施設の職員として、医師の立場でこの役割を担うのが「矯正医官」である。
刑務所、少年院、少年鑑別所等の収容者には、何らかの精神科診断を有する者や、診断されていなくても明らかに精神症状を呈している者、発達特性や知的能力の課題を有している者、あるいは過酷な生活環境を生き延びてきた者が少なくない。彼/彼女らを全人的に評価し、その将来を見据えながら収容期間中伴走していくのは、他ならぬ精神科医の役割であると言える。
また、従来の矯正施設における人権意識の希薄さや秩序維持を過度に重視する傾向に対する反省から、法務省による「矯正改革推進プロジェクト」が2023年からスタートし、処遇体制や組織風土の改革が進められている。さらに2025年6月からは懲役刑・禁錮刑が廃止され、拘禁刑が導入されることが決まっている。これらの動きの背景には、受刑者を単に刑罰の対象とみなすのではなく、個々人の社会背景や特性に配慮しつつ、それぞれに最適な処遇を模索して、社会復帰を支援しようという考え方がある。こうした個別性の高い支援は、まさに精神科医療が得意とするところであり、この観点からも矯正医療における精神科医の役割が今後ますます重要となってくることが予想される。
他方、現在わが国には200以上の矯正施設があるが、矯正医官は定数に満たない状況が長年続いている。精神科医はさらにその一部でしかなく、本来満たされるべき精神科医療のニーズに比して、従事している精神科医の数は圧倒的に不足していると言わざるをえない。
本シンポジウムでは、刑務所、少年院、少年鑑別所に矯正医官として勤務する現役の精神科医がシンポジストとして参加する。まず矯正医療の概要を提示したのち、各シンポジストから、臨床経験、矯正医療の実情、今後の課題などについてそれぞれ独自の視点からプレゼンテーションを行う。次いで「矯正医療における精神科医の役割」について、総合的かつ多面的な討論を行う。
本企画が、矯正医療において精神科医が担うべき重要な役割について広く認知される契機となることを期待する。

[SY107-1]少年鑑別所における児童精神科医の役割

定本 ゆきこ (京都少年鑑別所)

[SY107-2]非行・犯罪と発達の視点

富田 拓1,2 (1.網走刑務所, 2.北海道家庭学校)

[SY107-3]少年院における精神科医の役割

中野 温子 (浪速少年院)

[SY107-4]刑務所改革と精神科医への期待

池田 伸 (広島刑務所)