セッション詳細

[SY11]シンポジウム11_解離症の理解と治療:トラウマ関連解離の“score”をめぐって

2026年6月18日(木) 16:30 〜 18:30
F会場(パシフィコ横浜ノース 3F G303)
司会:松本 俊彦(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)、井上 悠里(医療法人豊仁会まな星クリニック)
メインコーディネーター:新谷 宏伸(医療法人社団明雄会本庄児玉病院)
サブコーディネーター:井野 敬子(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
Johnson et al.(2006)の同地域コホート研究では、DES-Taxonと短縮SCID-Dを組み合わせた解析で解離症の12か月有病率が約8.5%と報告された。内訳は、離人症0.8%、解離性健忘1.8%、解離性同一性症(以下DID)1.5%、特定不能の解離性障害4.4%だが、この数値は評価ツールやサンプル特性に依存するため、他集団への外挿は慎重を要する。DSM-5-TRに記載された「米国の小規模な地域研究での成人DID有病率は1.5%」という"score"(数値)はこの調査が導いた推定に淵源をもつと解釈されるが、方法論的制約が十分に示されてはいない。
疫学的推定に不確実性が残る現状を前に、「解離はトラウマの本質である」と述べたvan der Kolkによる『The Body Keeps the Score』(2014)が題名になぜ"Score"を据えたのか、という問いは重要だ。邦題『身体はトラウマを記録する』が示すとおり、ここでの"Score"は「点数/成績」ではなく「記録/記憶」の意味だと捉えるのが妥当である。トラウマ記憶には身体感覚や感情が伴うことを象徴的に語っている。翻って、和英辞書で"score"を引けば「傷/刻まれた痕/切れ目」という意味も見つかる――主要な語形成経路が異なるため慎重に検討すべきであるが、一説にはscore(ゲルマン語派系)とscar(ラテン語系)はともに語根「*sker-」(切る/刻む)との関連が指摘される。無秩序型(D型)アタッチメント(Main & Solomon,1990)などの発達的文脈において、トラウマは語られぬまま身体に痕跡を刻み、自己の内的境界を分断して区画化を促進しうる。つまり、題名中の"Score"は、身体に残る痕跡としての「記録性」と、解離に伴う「境界の裂創」としての二重の意を響かせている。
本発表では、神経生理学的な基盤と心理学的要因の賜物である解離症への適切なアプローチを探索し、情報整理と解離能力の活用という二律背反的作業を脳に求める困難さに対処する糸口を見出したい。まず心療内科開業医の鈴木が、「適度な調整を保ちづらい病」としての解離について、日々の臨床に取り組む中での創意工夫などの実践的話題を提供する。米国でトラウマ臨床に従事する牧野は、身体志向心理療法の施行経験に言及しながら、海外でのパーツワークとトラウマ処理の実際を示す。新谷は、実践書『解離の治療』(Steele et al.,2016/邦訳2025)から核心概念を抽出し、世界的潮流について論じる。ドイツでの精神科勤務を経て帰国した宮田は、心的イメージや非言語表現を用いて多層的に患者を理解する臨床アートセラピーをDID患者に導入した症例を報告する。さらに細澤が、近年の手法を故安克昌、故中井久夫らが手掛けた治療と対比しつつ指定発言を行い、その後の質疑応答と総合討論での意見交換へとつなぐ。最後に、"score"は「楽譜」の意味も保有する。本シンポジウムの壇上とフロアの協奏により、刻印された記憶の譜面を読み解き、治癒へと転調するための理論と技法のポリフォニーを紡ぎたい。各発表は本学会の指針に従い、個人情報保護を含む倫理的配慮に十分に留意した上で行う。

[SY11-1]安全性に配慮した解離臨床の実際 ~心療内科医の立場から~

鈴木 裕介 (秋葉原saveクリニック)

[SY11-2]文化と解離のパラドックス― 社会文化的適応的解離(SCAD)の視点から ―

牧野 有可里 (ソマティック・アプローチ・ジャパン)

[SY11-3]『解離の治療』を読み解く―心理療法の停滞を招く要因とその対処

新谷 宏伸 (明雄会本庄児玉病院)

[SY11-4]解離症治療における臨床アートセラピーの意義

宮田 裕子1,2 (1.医療法人三家クリニック, 2.DAGTP e.V.(ドイツ))

[SY11-S1]指定発言

細澤 仁 (フェルマータ・メンタルクリニック)