講演情報

[P-1-02]重度感覚障害により麻痺側下肢の運動主体感が低下した患者に振り出しの内省を促すことで歩行を獲得した症例

*足立 凌汰1、池尻 生実1、平野 晋資2 (1. 福岡リハビリテーション病院 リハビリテーション部、2. 福岡リハビリテーション病院 脳神経内科)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

運動主体感、感覚障害、歩行

【倫理的配慮】本症例報告の実施にあたり、対象者には本報告の目的および内容について十分に説明し、書面にて同意を得た。なお、個人が特定されないよう十分に配慮した。

【はじめに】運動主体感とは「この運動は自分によるものだ」という主体の感覚であり、運動時の感覚フィードバックの予測と実際の感覚フィードバックが時空間的に一致することで生成される(Gallagher 2000)。また、脳卒中患者において、感覚障害が重度であるほど運動主体感が低下しやすいと報告されている(宮脇 2022)。今回、重度感覚障害により、麻痺側下肢に対する運動主体感が低下した症例を担当した。本症例に対し、麻痺側下肢の振り出しを内省させたことで、運動主体感が向上し、歩行の獲得に至ったため報告する。【症例紹介】左視床出血を呈した70歳代男性、発症16日目より当院へ転院。基本動作・歩行は全介助であった。機能面において、Brunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)は下肢Ⅰ、Borg Balance Scale(以下、BBS)、Fugl-Meyer Assessment下肢運動項目(以下、FMA下肢)は、全て0点であり、麻痺側下肢の感覚は、表在・深部感覚ともに脱失していた。麻痺側下肢の運動主体感は、Numerical Rating Scale(以下、NRS)にて1であり「右足は自分で動かすことはできない」といった発言が聞かれた。【経過・介入】発症16日目より長下肢装具を用いた起立・歩行練習を開始。麻痺側下肢のステップ練習では、姿勢鏡にて視覚フィードバックを行うも「右足は動かない」「自分では動かしていない」といった発言が聞かれた。そこで、運動主体感を再構築するために、発症127日目より、ステップや歩行練習において「必ず右足を前に出して歩いてください」と声掛けを行い、麻痺側下肢の振り出しを強調し、運動を予測させた。そして、振り出した際の足部の位置や動きを視覚的に確認・内省させた。最終評価にて、基本動作は見守りから修正自立となり、4点杖・短下肢装具を使用し、病棟内は、見守りで歩行可能となった。機能面においては、BRS下肢Ⅳ、BBS31点、FMA下肢21点まで改善し、麻痺側下肢の感覚は、表在:重度鈍麻、深部:中等度鈍麻と改善を認めた。麻痺側下肢の運動主体感は、NRS7まで向上し「右足は自分で出している」といった発言が聞かれた。【考察】本症例は、重度感覚障害により麻痺側下肢の感覚フィードバックが阻害され、運動時における感覚の予測と結果の照合が困難となり運動主体感が低下していたと考える。そこで、麻痺側下肢に対し、歩行やステップ時の振り出しを視覚的に確認・内省させることで、運動主体感の再構築を図った結果、歩行の獲得に至った。運動主体感は「feeling of agency(潜在的・無意識レベル)」と「judgement of agency(顕在的・意識レベル)」の二層構造を有し、顕在的レベルにおける動作の内省が、潜在的レベルでの主体感を修飾すると述べている(Synofzik 2008)。今回、麻痺側下肢の振り出しを視覚的に確認させたことで、運動時における感覚予測と結果の照合を促し、それを内省させることで、顕在的レベルでの運動主体感が再構築されたと考える。また、これらの反復により、トップダウン的に顕在的レベルから潜在的レベルの主体感へ修飾され、歩行の獲得に至ったと考える。【結語】麻痺側下肢の振り出しを視覚的に確認・内省させることで運動主体感が再構築され、それを反復することにより、顕在的レベルから潜在的レベルの運動主体感を修飾し、歩行の獲得に至ったと考える。

コメント

コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン