講演情報

[P-10-04]低血圧を伴う超重度の大動脈弁狭窄症患者の離床について
~脈圧・脈圧比に着目して~

*野田 彩乃1、挽地 裕2、小山 卓2、樫山 国宣2、鶴 良太1、岡部 達哉1、吉田 美夏1 (1. 医療法人輝栄会 福岡輝栄会病院 リハビリテーション科、2. 医療法人輝栄会 福岡輝栄会病院 循環器内科)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

大動脈弁狭窄症、低血圧、離床基準

本症例はヘルシンキ宣言に沿って行い、収集した情報は個人情報が特定できないよう十分に配慮をした。

【はじめに】心血管疾患におけるリハビリテーション(以下,リハ)に関するガイドラインでは,超重度大動脈弁狭窄症(以下,AS)は突然死のリスクが高く,循環動態が急激に変化し得るため,積極的な運動療法は原則禁忌とされている.特に著明な低血圧を伴う症例では,離床に伴う前負荷および後負荷の変動が心拍出量低下や失神を誘発する危険性が高く,離床可否の判断に難渋することが多い.本症例は一般的な離床基準を満たさない持続的な低血圧状態にあったが,循環動態を反映する指標として脈圧および脈圧比に着目し,段階的離床を実施した結果,安全に自宅復帰したためその経過を報告する.

【症例紹介】90歳代女性.診断名は超重度ASおよび慢性心不全であり,既往に持続性心房細動と慢性腎臓病を有していた.血液生化学所見はNT-proBNP 27902.7pg/mLと高値を示し,胸部X線にて両側胸水貯留を認めた.心エコー図検査ではLVEF 48%,Vmax 4.65m/s,meanPG 62mmHg,AVA 0.61cm2であり,超重度ASと診断された.安静時血圧は収縮期血圧60-80mmHg,拡張期血圧40-60mmHgと低値で推移していたが,脈圧は25±7mmHg,脈圧比(脈圧/収縮期血圧)は0.31±0.06を維持していた.長谷川式簡易知能評価スケールは3点と著明な低下を認めた.過去1年間に心不全増悪による入院を3回繰り返していたが,家族は根治的な外科的治療を希望せず,介助量軽減と車椅子レベルでの自宅復帰を強く希望された.

【方法】本症例の過去の入院経過を踏まえ,血圧の絶対値のみならず,循環動態評価が重要と考えた.そこで,離床指標として「脈圧20mmHg以上」かつ「脈圧比0.25以上」を基準とした.評価項目は血圧,心拍数,心電図変化に加え,表情や活気などの臨床所見を総合的に評価した.リハ介入はベッド上での関節可動域訓練および筋力訓練から開始し,設定した指標を逸脱しない範囲で,起き上がり・端座位,起立・立位保持,移乗へと段階的に離床を進めた.

【結果】脈圧および脈圧比を指標とした管理の下で段階的離床を遂行した結果,循環動態を維持しながらリハを進行できた.最終的に家族介助下での車椅子移乗および座位保持が可能となり,自宅復帰を達成した.リハ介入期間を通じてAS三徴候(失神,胸部症状,心不全増悪)の出現を認めず,不整脈の増悪や著明な血圧低下といった有害事象も認めなかった.

【考察】超重度AS患者の離床においては,体位変換に伴う前負荷減少や後負荷増大に対し,固定された弁口面積により心拍出量を維持できず,脳灌流低下を来すリスクがある.本症例のような慢性的な低血圧症例では,従来の血圧閾値のみでは離床耐容能を正確に評価できず,リハ中止や過度な安静を強いる要因となる.今回,一回拍出量の代用指標となり得る脈圧および脈圧比を指標としたことで,収縮期血圧が低い状態であっても循環動態の増悪を予兆段階で把握でき,安全に離床を進められた可能性がある.低血圧を伴う超重度AS患者において,脈圧および脈圧比は離床判断の有用な臨床指標となる可能性が示唆された.

【まとめ】著明な低血圧を呈する超重度ASの超高齢患者に対し,脈圧および脈圧比に着目した管理下で段階的離床を実施し,自宅復帰に至った.本知見は,一般的な離床基準の適用困難症例におけるリハ戦略の一助となる可能性がある.

コメント

コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン