講演情報

[P-20-01]両下腿切断を有する被殻出血後重度左片麻痺症例に対する理学療法

*笠作 康太郎1、秋吉 亜希子1、岡 高史1 (1. 社会医療法人青洲会 福岡青洲会病院 リハビリテーション部)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

重複障害、在宅復帰、課題指向型アプローチ

【倫理的配慮】本症例報告は、本人および家族に口頭で十分な説明を行い、同意を得た。その後当院倫理委員会にて承認済み(青発倫2025-80)。

【目的】被殻出血において推定出血量60mlは重度後遺症や機能予後不良が強く示唆される因子である。本症例は既往に両下腿切断という重度の身体障害を有し、今回、推定出血量66mlの右被殻出血による重度左片麻痺および左半側空間無視を呈した極めて稀で、かつ重症度の高い症例である。一般的に在宅復帰が困難と予想される条件下で、課題指向型の理学療法介入により在宅復帰に至った経過について報告する。

【症例提示】60歳代女性、右利き、発症前は既往に全身熱傷に伴う両下腿切断、高血圧症、腰部脊柱管狭窄症などを有していたが、両義足装着と両T字杖使用下で短距離歩行は自立し、入浴は夫の介助が必要であったがその他の日常生活動作は自立していた。今回、腰部脊柱管狭窄症の加療のため他院入院中に右被殻出血を発症。当院に救急搬送後、同日に内視鏡下血腫除去術を施行され、急性期治療後の第25病日に当院回復期病棟へ転棟した。

【理学療法評価・経過】初期評価は12段階片麻痺グレードで左下肢3、表在感覚重度鈍麻、深部感覚脱失、関節可動域は両膝関節伸展0度・屈曲90度、MMTは右下肢3+、FIM運動項目は17点で下肢運動機能は著しく低下していた。基本動作重度介助、HDS-Rは25点、高次脳機能障害は左半側空間無視がみられていた。画像所見の推定出血量が66mlであった点などを考慮して、麻痺側上肢機能の回復および実用歩行の獲得は困難と予測した。症例のデマンドは「夫とドライブに行きたい」であった。この目標を達成するため、ニードを「移乗動作の介助量軽減」と設定して介入した。理学療法プログラムは抗重力位の運動療法を中心に両義足装着下での起立練習と立位アライメント調整、義足+長下肢装具を装着し麻痺側下肢への荷重練習、体幹安定性向上を目的とした歩行練習などを段階的に実施した。その結果、退院時の最終評価は12段階片麻痺グレード下肢7、表在・深部感覚ともに中等度鈍麻、FIM運動項目は34点へ改善し、移乗動作は見守りレベルとなった。入院中に要介護3の認定を受け、介護保険サービスの調整を行い、第150病日に自宅退院となった。退院後は夫とドライブにも行けているとのことである。

【考察】脳卒中患者に対する理学療法では麻痺側足底からの刺激入力が脳への感覚入力の賦活に重要とされている。しかし、本症例は両下腿切断があり刺激入力方法に苦慮した。足底からの荷重感覚の代替として両義足装着下での適切なアライメント修正、長下肢装具を使用した麻痺側への荷重練習や歩行練習など、膝・股関節を中心に下肢からの感覚入力を意識した理学療法プログラムは、運動麻痺の機能回復、日常生活動作の向上に有効であることが示唆されたと考える。片麻痺と両下腿切断という重度の重複障害症例においても、「夫とドライブに行きたい」という具体的な生活目標を明確化し、課題指向型の理学療法により、基本動作能力の向上、在宅復帰という実用的なアウトカムを達成できる可能性が示唆されたと考える。

コメント

コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン