講演情報

[P-20-04]歩行時に身体の後方偏倚を認めた左視床出血症例に対する前庭リハビリテーションの一考察

*秋山 恵輝1、馬場 智大1、平川 善之1、多田隈 博2 (1. 医療法人 博仁会 福岡リハビリテーション病院 リハビリテーション部、2. 医療法人 博仁会 福岡リハビリテーション病院 診療部)
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キーワード:

視床出血、歩行、前庭機能

【倫理的配慮】
本報告は,対象者に対して本発表の趣旨と個人情報の保護に関する説明を口頭で十分に説明した上で,患者本人から同意を得て実施した。

【目的】
前庭情報は前庭神経核から脳幹を上行し,視床を経由して頭頂島前庭皮質へ伝達され,姿勢制御に関与することが示唆されている。しかし,前庭経路の損傷部位と歩行への影響については不明な点が多い。今回,左視床出血を発症し歩行時に身体の後方偏倚を認めた症例に対し,前庭機能評価および前庭リハビリテーション(VR)を実施し,経過から得られた知見を報告する。
【症例紹介】
症例は60代男性で左視床出血発症後20病日に当院へ入院した。病前ADLは独歩で自立していた。入院時のCT画像では,左視床腹側中間核(Vim),後外側腹側核(VPL),背内側核周辺に損傷を認めた。理学療法評価は,Fugl-Meyer Assessment(FMA)下肢27点,FMA協調性5点,Trunk Impairment Scale(TIS)8点,表在・深部感覚軽度鈍麻、複視を認めた。Berg Balance Scale(BBS)は22点で歩行は身体の後方偏倚とふらつきを認め歩行器使用と介助を要した。高次脳機能は,判断・病識低下を認め,危険認識や適切な行動選択が困難であった。
【経過】
屋内独歩自立を目標に,介入初期は体幹機能に着目した機能訓練を実施し,97病日にはTIS14点となり独歩軽介助となった。一方,身体の後方偏倚とふらつきは残存し,特に頭部後屈運動時に増大する所見を認めた。また,重力受容経路の損傷で生じる病巣と対側の頭部傾斜と斜偏視の眼球傾斜反応所見が確認され,歩行時のふらつきには前庭機能の関与も疑われ評価を実施した。前庭機能評価は,Head Impulse Test(HIT)は後屈時のみ陽性,頭振り眼振検査では右向き水平性と下眼瞼向き眼振,頭位眼振検査は前屈位で持続する下眼瞼向き眼振を認め,VOR抑制検査は陽性,Dynamic Visual Acuity(DVA)は0.6logMAR以上の低下を認めた。また,BBSは39点,Functional Gait Assessment(FGA)は9点であり頭部運動時や方向転換を伴う動作で減点を認めた。以上から,本症例は中枢性の前庭機能低下を呈し,歩行不安定性への関与を仮説し107病日よりVRを追加実施した。VRは視線安定化を目的にGaze Stabilization Exerciseを座位・立位・歩行へ段階的に実施し,また感覚代行として前足部への荷重感覚入力を目的にランジ歩行や段差昇段練習を実施した。156病日には眼振やVOR抑制異常に変化なかったが,DVAは0.5logMAR,BBSは47点,FGAは18点へ向上し,歩行中の後方不安定性は軽減した。しかし,高次脳機能障害は残存し,屋内移動は独歩見守りとなり施設退院に至った。
【考察】
視床VimとVPLは前庭神経核から頭頂島前庭皮質へ至る経路に関与し,また下眼瞼向き眼振やVOR抑制異常は小脳から前庭神経核への脱抑制との関連が報告されている。本症例では同様の経路の損傷と前庭機能不均衡の所見を認めたことから,小脳損傷は認めないものの前庭神経核の脱抑制を含む前庭機能低下を生じた可能性が推察された。また,HITにて後半規管の前庭動眼反射の低下が推察され,特に頭部後屈運動を伴う歩行時の姿勢定位へ影響し,身体の後方偏倚を認めた可能性が推察された。VR介入後はDVAおよび動的バランス能力が向上し,前庭代償や感覚再重み付けが寄与した可能性が考えられた。本症例を通し,視床病変後は前庭機能不均衡に由来した歩行不安定性を招く可能性と前庭機能評価に基づく介入が必要となる可能性が示された。

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