講演情報

[P-8-03]徒手介入により即時改善を認めた前胸部痛~外側胸筋神経の関与が示唆された一症例~

*橋本 裕司1、安部 隆義1、大鍛治 孝幸1、谷 侑太1、尾崎 良勝1、牟田口 瞬1、渡邊 裕介2 (1. わたなべ整形外科クリニック リハビリテーション部、2. わたなべ整形外科クリニック 整形外科)
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キーワード:

エコー、外側胸筋神経、即時効果

【倫理的配慮】
 本発表はヘルシンキ宣言に基づき、当院の倫理委員会の承認を得て、患者に十分な説明を行い同意が得られた後に実施した。

【目的】
 前胸部痛は胸郭出口症候群や頸椎神経根症など多様な病態を含む。近年、末梢神経の機能的絞扼や滑走に着目した報告は多いが、外側胸筋神経(lateral pectoral nerve:LPN)に起因する前胸部痛の報告は乏しい。特に同神経は主に運動枝とされるため、LPNと疼痛との関連については十分に検討されていない。本症例はエコーを用いた評価および介入により即時的改善を認め、LPNの関与が示唆されたため報告する。
【症例紹介】
 40歳代男性。重量物運搬後より前胸部痛が出現し、反復作業により増悪した。咳嗽や重量物の挙上動作で疼痛が持続するため当院受診となった。既往に頸椎椎間板ヘルニアおよび胸郭出口症候群があった。発症8日目の評価では咳嗽、挙上抵抗時に右前胸部痛NRS6/10、感覚障害は認めなかった。烏口突起より3横指遠位の第2肋骨上に限局して疼痛を認めた。胸郭出口症候群および頸椎由来症状の評価を行ったが、上肢症状や疼痛誘発テストは陰性であった。右大胸筋はMMT3と筋力低下および疼痛を認めた。 エコーにて大胸筋―小胸筋間に胸肩峰動静脈を確認し、同部位への圧迫にて再現痛を認めた。本症例ではエコーを用いて解剖学的位置関係を確認しつつ、症状の再現性および介入による即時的変化を指標として総合的に評価した。同部位での圧痛および動作時痛の増強から、LPN周囲組織との相対的な滑走性低下の可能性が示唆された。姿勢評価では頭部前方位、肩甲骨前傾・内旋・下方回旋を呈していた。
【経過】
 既往の頸椎由来および胸郭出口症候群は否定的であった。圧痛部位およびエコー下での再現痛、大胸筋の選択的筋力低下からLPNの関与を疑い、LPN周囲に対して滑走を考慮した操作および圧変動操作を実施した。初回介入直後の深呼吸や徒手抵抗下での収縮時痛はNRS1/10まで軽減し、MMTは5へ改善、圧痛も消失した。その後、週1回計3回の介入で症状は消失し、日常生活および作業時の疼痛も再発は認めなかった。
【考察】
 LPNは胸肩峰動静脈に伴走し大胸筋―小胸筋間を走行する解剖学的特徴を有し、周囲組織の影響を受けやすい位置関係にある。本症例では同部位での圧迫により症状が再現されたことから、神経の機械的刺激に対する関与が示唆された。さらに、反復負荷による大胸筋の過緊張や不良姿勢に伴う小胸筋短縮が神経周囲環境に影響を与え、機能的絞扼を助長した可能性が考えられた。LPNは主に運動枝とされるが、末梢神経は機械的刺激に対する感受性を有しており、圧迫や伸張により疼痛を生じ得ることが知られている。さらに、神経周囲組織にも侵害受容器が存在することから、滑走性の低下や局所的な機械的ストレスが疼痛発生に関与した可能性がある。本症例ではエコー上で明確な滑走異常の描出には至らなかったが、①特定部位での再現性、②神経走行に近似した圧痛、③介入直後の疼痛軽減と筋出力の同時改善を認めたことから、筋単独ではなく神経機能の関与が大きいと解釈した。特に、疼痛軽減と同時に筋出力の改善を認めた点は、神経機能の可逆的変化を示唆する所見と考えられる。さらに、解剖学的位置関係および症状再現部位からLPNの関与が最も考えられた。症状の再現性および即時的変化に基づく評価と介入は、前胸部痛に対する臨床的アプローチの一助となる可能性がある。

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