講演情報
[P-9-03]恐怖反応を伴うLateropulsion に対する段階的感覚運動再学習の効果 -橋出血の一症例-
*吉永 幸生1 (1. 医療法人杉村会 杉村病院 リハビリテーション部)
キーワード:
Lateropulsion、重力知覚、感覚統合
本症例はヘルシンキ宣言に基づき十分な説明を行い本人の同意を得た。個人情報保護に配慮し匿名化した。
【目的】
Lateropulsion(LP)は、主観的身体垂直の障害を基盤とする姿勢定位障害とされ、脳卒中発症後に見られる特徴的な姿勢制御障害の一つである。Nolanら(1)はLPを主観的身体垂直の障害に基づく姿勢定位異常と位置づけ、Pusher syndrome(PS)はその行動表現と整理している。脳卒中発症後に認められる姿勢制御障害はPSとして扱われることが多いが、行動の背景要因を検討することが重要である。本症例では、pushing様行動を病巣所見及び患者の主観的体験から恐怖反応を伴うLPと解釈し、重力知覚と身体垂直統合障害への理学療法介入を実施した経過を報告する。
【症例紹介】
50代男性。既往に右被殻出血を有し今回橋被蓋を含む広域左橋出血を発症した。右被殻出血の後遺症は軽微であり、左上下肢のBr.stageはV、ADLは自立していた。右上下肢のBr.stageはIV、立位にて右側偏倚と強い恐怖反応、患側下肢荷重感覚脱失を認め、患側荷重回避とpushing様行動を呈し、「体重を乗せるのが怖い」との発言も聞かれた。能動的な押し行動は明確ではなく、典型的なPSとは異なると判断した。Functional Ambulation Category(FAC)は1点であった。
【理学療法介入】
橋被蓋部病変による前庭脊髄路および重力知覚路の障害を主病態と仮定し、感覚再構築と抗重力姿勢下での荷重学習を段階的に実施した。重力下にて症状顕在化がみられた為、非重力位である背臥位より介入を開始しPNFパターン運動にて患側荷重感覚再認識を図った。座位では Bobath概念に基づく骨盤楕円運動により、左右荷重制御の再学習を行った。座位から立位の移行では恐怖反応が強く認められたため恐怖反応の軽減を優先し、高坐位を経由し立位へ段階的に移行した。高坐位にて体幹伸展と協調した患側下肢への荷重促通を実施し、歩行時には弾性バンドを用い遊脚開始の外的提示及び下腿の二重振り子運動の再学習を図った。
【結果】
介入開始1週で患側荷重感覚の再認識が出現し、2週で片手のみでの立位保持が可能となった。3週で把持物なし立位保持が60秒以上可能、前腕支持歩行器での歩行が可能となりFACは1点から3点へ改善、恐怖反応は軽減した。
【考察】
先行研究(1)はLPを主観的身体垂直の障害と位置づけ、pushingは二次的行動と整理している。本症例では明確な押し行動のないpushing様行動を、恐怖反応を伴うLPと解釈した。橋被蓋部は前庭脊髄路や内側毛帯との関連が報告されており、重力知覚および身体垂直認知の統合に関与するとされる。本症例でもこれらの統合障害により重力下での姿勢制御が破綻し、姿勢不安に起因する恐怖反応が生じた可能性が考えられた。そこで非重力位から段階的に荷重感覚入力を再構築し、重力負荷を漸増させたことにより姿勢制御の再学習が促され、患側荷重感覚の再認識に伴い恐怖反応が軽減し、LPの改善に寄与した可能性が考えられた。さらに外的誘導による遊脚再学習も短期間での機能改善に寄与した可能性が示唆された。本症例はLPを行動のみで捉えるのではなく、その背景にある重力知覚と身体垂直認知の統合障害に着目する重要性を示唆する症例であった。
【まとめ】
恐怖反応を伴うLateropulsionに対する段階的な感覚運動再学習は、有効な介入戦略の一つとなり得る可能性が示唆された。
【参考文献】
1) Nolan KJ, et al.
【目的】
Lateropulsion(LP)は、主観的身体垂直の障害を基盤とする姿勢定位障害とされ、脳卒中発症後に見られる特徴的な姿勢制御障害の一つである。Nolanら(1)はLPを主観的身体垂直の障害に基づく姿勢定位異常と位置づけ、Pusher syndrome(PS)はその行動表現と整理している。脳卒中発症後に認められる姿勢制御障害はPSとして扱われることが多いが、行動の背景要因を検討することが重要である。本症例では、pushing様行動を病巣所見及び患者の主観的体験から恐怖反応を伴うLPと解釈し、重力知覚と身体垂直統合障害への理学療法介入を実施した経過を報告する。
【症例紹介】
50代男性。既往に右被殻出血を有し今回橋被蓋を含む広域左橋出血を発症した。右被殻出血の後遺症は軽微であり、左上下肢のBr.stageはV、ADLは自立していた。右上下肢のBr.stageはIV、立位にて右側偏倚と強い恐怖反応、患側下肢荷重感覚脱失を認め、患側荷重回避とpushing様行動を呈し、「体重を乗せるのが怖い」との発言も聞かれた。能動的な押し行動は明確ではなく、典型的なPSとは異なると判断した。Functional Ambulation Category(FAC)は1点であった。
【理学療法介入】
橋被蓋部病変による前庭脊髄路および重力知覚路の障害を主病態と仮定し、感覚再構築と抗重力姿勢下での荷重学習を段階的に実施した。重力下にて症状顕在化がみられた為、非重力位である背臥位より介入を開始しPNFパターン運動にて患側荷重感覚再認識を図った。座位では Bobath概念に基づく骨盤楕円運動により、左右荷重制御の再学習を行った。座位から立位の移行では恐怖反応が強く認められたため恐怖反応の軽減を優先し、高坐位を経由し立位へ段階的に移行した。高坐位にて体幹伸展と協調した患側下肢への荷重促通を実施し、歩行時には弾性バンドを用い遊脚開始の外的提示及び下腿の二重振り子運動の再学習を図った。
【結果】
介入開始1週で患側荷重感覚の再認識が出現し、2週で片手のみでの立位保持が可能となった。3週で把持物なし立位保持が60秒以上可能、前腕支持歩行器での歩行が可能となりFACは1点から3点へ改善、恐怖反応は軽減した。
【考察】
先行研究(1)はLPを主観的身体垂直の障害と位置づけ、pushingは二次的行動と整理している。本症例では明確な押し行動のないpushing様行動を、恐怖反応を伴うLPと解釈した。橋被蓋部は前庭脊髄路や内側毛帯との関連が報告されており、重力知覚および身体垂直認知の統合に関与するとされる。本症例でもこれらの統合障害により重力下での姿勢制御が破綻し、姿勢不安に起因する恐怖反応が生じた可能性が考えられた。そこで非重力位から段階的に荷重感覚入力を再構築し、重力負荷を漸増させたことにより姿勢制御の再学習が促され、患側荷重感覚の再認識に伴い恐怖反応が軽減し、LPの改善に寄与した可能性が考えられた。さらに外的誘導による遊脚再学習も短期間での機能改善に寄与した可能性が示唆された。本症例はLPを行動のみで捉えるのではなく、その背景にある重力知覚と身体垂直認知の統合障害に着目する重要性を示唆する症例であった。
【まとめ】
恐怖反応を伴うLateropulsionに対する段階的な感覚運動再学習は、有効な介入戦略の一つとなり得る可能性が示唆された。
【参考文献】
1) Nolan KJ, et al.
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