講演情報
[教育講演2(神経系)]脳卒中後の歩行調整障害をどう捉え、どう変えるか
~未来への歩行再建を考える~
西 祐樹 (長崎大学 生命医科学域[保健学系]、畿央大学 ニューロリハビリテーション研究センター)
[職歴]
2017年 医療法人友紘会西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部入職
2022年 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員
2022年 長崎大学生命医科学域(保健学系)(現職)
[学歴]
2015年 長崎大学医学部保健学科理学療法学専攻 卒業
2021年 畿央大学大学院健康科学研究科 博士課程修了(健康科学博士)
[主な資格]
専門理学療法士(神経)
[業績]
・Nishi Y, Ikuno K, Minamikawa Y, Osumi M, Morioka S: Tailored transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesia in individuals with spinal cord injury: A randomized N-of-1 trial. The Journal of Spinal Cord Medicine, 1-10, 2025.
・Nishi Y, Fujii S, Ikuno K, Terasawa Y, Morioka S: Adjustability of gait speed in clinics and free-living environments in people with Parkinson’s disease. Journal of Movement Disorders, 17(4):416-424, 2024.
・Nishi Y, Ikuno K, Takamura Y, Minamikawa Y, Morioka S: Modeling the Heterogeneity of Post-Stroke Gait Control in Free-Living Environments Using a Personalized Causal Network. IEEE Transactions on Neural Systems and Rehabilitation Engineering, 32:3522-3530, 2024.
[主な社会活動]
一般社団法人 日本ペインリハビリテーション学会, 代議員
日本基礎理学療法学会, 広報・渉外部
日本物理療法学会, 国際渉外部
2017年 医療法人友紘会西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部入職
2022年 畿央大学大学院健康科学研究科 客員研究員
2022年 長崎大学生命医科学域(保健学系)(現職)
[学歴]
2015年 長崎大学医学部保健学科理学療法学専攻 卒業
2021年 畿央大学大学院健康科学研究科 博士課程修了(健康科学博士)
[主な資格]
専門理学療法士(神経)
[業績]
・Nishi Y, Ikuno K, Minamikawa Y, Osumi M, Morioka S: Tailored transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesia in individuals with spinal cord injury: A randomized N-of-1 trial. The Journal of Spinal Cord Medicine, 1-10, 2025.
・Nishi Y, Fujii S, Ikuno K, Terasawa Y, Morioka S: Adjustability of gait speed in clinics and free-living environments in people with Parkinson’s disease. Journal of Movement Disorders, 17(4):416-424, 2024.
・Nishi Y, Ikuno K, Takamura Y, Minamikawa Y, Morioka S: Modeling the Heterogeneity of Post-Stroke Gait Control in Free-Living Environments Using a Personalized Causal Network. IEEE Transactions on Neural Systems and Rehabilitation Engineering, 32:3522-3530, 2024.
[主な社会活動]
一般社団法人 日本ペインリハビリテーション学会, 代議員
日本基礎理学療法学会, 広報・渉外部
日本物理療法学会, 国際渉外部
[抄録]
脳卒中後の歩行障害は,麻痺側下肢機能の低下,感覚障害,姿勢制御障害などを背景として,歩行速度の低下,歩幅の短縮,左右非対称性,歩行変動性の増大として表出する.これらは転倒リスクを高め,ADLやQOLの低下に直結する重要な問題である.従来,臨床では10m歩行試験,2分間歩行試験,6分間歩行試験などの標準化された歩行評価が用いられ,一定条件下における歩行能力,すなわちCapacityの把握や,回復過程および介入効果の判定に大きな役割を果たしてきた.一方で,臨床場面ではしばしば,評価室やリハビリテーション室では安定して歩行できるにもかかわらず,病棟や自宅では転倒する,あるいは外来では歩きやすいが生活場面では思うように歩けない,といったCapacityとPerformanceの乖離に直面する.リハビリテーションは,平坦で整備された空間,明確な課題設定,医療従事者による見守りや介助が存在する比較的安定した環境で実施される.これに対して,自由生活環境では,床面,障害物,時間的制約,周囲の人の動き,疲労,注意負荷,心理的緊張などが複雑に変化する.そこでは歩行は単なる移動能力ではなく,多様な目的や文脈の中で遂行される生活行為である.この乖離は,脳卒中後の歩行障害を,一定条件下における歩行能力の低下としてのみ捉えることの限界を示している.
近年,自由生活環境における歩行速度には,主に二つの選好速度が存在することが示されている.比較的低い速度は,認知負荷が高い状況,狭い空間,周囲への注意を要する場面での歩行に対応し,比較的高い速度は,特定の目的地へ向かう場面や広い空間での歩行に対応すると考えられる.すなわち,生活場面における歩行速度は単に速いか遅いかではなく,環境や目的に応じて選択される適応的な運動戦略である.本講演では,このような環境や文脈に応じた歩行速度をはじめとした歩行戦略の適応が十分に行えない状態を「歩行調整障害」として位置づける.同じ歩行速度の低下を示す症例であっても,速度を高める際に歩幅を十分に拡大できずケイデンスに依存しているのか,安定性を確保するために速度を抑制しているのか,あるいは二重課題や疲労によって歩行の規則性が崩れやすいのかによって,背景にある制御戦略は異なる.したがって,脳卒中後歩行を理解するためには,代表値としての歩行能力だけでなく,条件変化に対する応答,代償戦略の特徴,歩行が破綻する文脈を読み解く必要がある.
歩行調整障害を捉えることは,介入方針の個別化にも直結する.速度変化に伴う歩幅とケイデンスの調整,方向転換時の支持性と身体方向の制御,疲労に伴う歩行変動性の変化などを観察することで,どの要素を治療課題として扱うべきかが明確になる.重要なのは,個々の症例がどの条件で歩行を変化させにくいのか,どの代償に依存して歩行を成立させているのか,どの文脈で歩行が破綻するのかを踏まえ,評価と介入を連続的に設計することであると考えられる.本講演では,自験例を交えながら,脳卒中後歩行におけるCapacityとPerformanceの乖離を手がかりに,歩行調整障害を環境,課題,身体機能,心理的文脈との相互作用から整理し,個別化されたリハビリテーションへ接続する視点について考えていきたい.
脳卒中後の歩行障害は,麻痺側下肢機能の低下,感覚障害,姿勢制御障害などを背景として,歩行速度の低下,歩幅の短縮,左右非対称性,歩行変動性の増大として表出する.これらは転倒リスクを高め,ADLやQOLの低下に直結する重要な問題である.従来,臨床では10m歩行試験,2分間歩行試験,6分間歩行試験などの標準化された歩行評価が用いられ,一定条件下における歩行能力,すなわちCapacityの把握や,回復過程および介入効果の判定に大きな役割を果たしてきた.一方で,臨床場面ではしばしば,評価室やリハビリテーション室では安定して歩行できるにもかかわらず,病棟や自宅では転倒する,あるいは外来では歩きやすいが生活場面では思うように歩けない,といったCapacityとPerformanceの乖離に直面する.リハビリテーションは,平坦で整備された空間,明確な課題設定,医療従事者による見守りや介助が存在する比較的安定した環境で実施される.これに対して,自由生活環境では,床面,障害物,時間的制約,周囲の人の動き,疲労,注意負荷,心理的緊張などが複雑に変化する.そこでは歩行は単なる移動能力ではなく,多様な目的や文脈の中で遂行される生活行為である.この乖離は,脳卒中後の歩行障害を,一定条件下における歩行能力の低下としてのみ捉えることの限界を示している.
近年,自由生活環境における歩行速度には,主に二つの選好速度が存在することが示されている.比較的低い速度は,認知負荷が高い状況,狭い空間,周囲への注意を要する場面での歩行に対応し,比較的高い速度は,特定の目的地へ向かう場面や広い空間での歩行に対応すると考えられる.すなわち,生活場面における歩行速度は単に速いか遅いかではなく,環境や目的に応じて選択される適応的な運動戦略である.本講演では,このような環境や文脈に応じた歩行速度をはじめとした歩行戦略の適応が十分に行えない状態を「歩行調整障害」として位置づける.同じ歩行速度の低下を示す症例であっても,速度を高める際に歩幅を十分に拡大できずケイデンスに依存しているのか,安定性を確保するために速度を抑制しているのか,あるいは二重課題や疲労によって歩行の規則性が崩れやすいのかによって,背景にある制御戦略は異なる.したがって,脳卒中後歩行を理解するためには,代表値としての歩行能力だけでなく,条件変化に対する応答,代償戦略の特徴,歩行が破綻する文脈を読み解く必要がある.
歩行調整障害を捉えることは,介入方針の個別化にも直結する.速度変化に伴う歩幅とケイデンスの調整,方向転換時の支持性と身体方向の制御,疲労に伴う歩行変動性の変化などを観察することで,どの要素を治療課題として扱うべきかが明確になる.重要なのは,個々の症例がどの条件で歩行を変化させにくいのか,どの代償に依存して歩行を成立させているのか,どの文脈で歩行が破綻するのかを踏まえ,評価と介入を連続的に設計することであると考えられる.本講演では,自験例を交えながら,脳卒中後歩行におけるCapacityとPerformanceの乖離を手がかりに,歩行調整障害を環境,課題,身体機能,心理的文脈との相互作用から整理し,個別化されたリハビリテーションへ接続する視点について考えていきたい.
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