第57回内藤コンファレンス

開催趣旨

グリア・ニューロンネットワークが奏でる脳と全身機能の制御

Glia–Neuron Networks Orchestrating Brain and Systemic Function


第57回内藤コンファレンス組織委員長 
小泉 修一
山梨大学

 

 私たちの脳は、ニューロンだけで働いているのではない。かつて神経細胞を支える「支持細胞」と考えられていたグリア細胞は、今やニューロンと絶えず情報を交換し、シナプス伝達、神経回路形成、情報処理、学習・記憶などを能動的に制御する存在であることが明らかになってきた。ニューロンがつくる神経回路と、多様なグリア細胞が織りなす双方向の相互作用、すなわち「グリア・ニューロンネットワーク」を理解することは、脳の働きを捉え直す新たな視座となりつつある。

そして現在、このネットワークの概念は「脳の中」から「全身」へと大きく広がろうとしている。免疫系、代謝系をはじめとする末梢臓器からの情報は、神経活動に加え、液性因子や免疫シグナルとして脳へ伝えられ、グリアとニューロンによって統合される。一方、脳は自律神経系や内分泌系などを介して全身の恒常性を制御する。こうした脳と全身の双方向コミュニケーションの中で、グリアがどのような情報を感知し、ニューロンと協調して生体機能を調節するのか。その解明は、神経科学の枠を越え、免疫、代謝、循環、加齢、がんなど多様な生命現象や疾患を統合的に理解する新しい扉を開きつつある。

この急速な展開を可能にしているのが、生体イメージング、光・化学遺伝学による細胞種特異的操作、シングルセル・空間オミクス解析などの革新的技術である。これらにより、個体内で刻々と変化する細胞間コミュニケーションを捉え、その因果関係に迫ることが可能となった。同時に、神経科学と免疫学、代謝・内分泌学、循環器学、腫瘍学など、従来は異なる領域として発展してきた研究分野が、「脳と全身の相互作用」という共通の問いのもとに交わり始めている。

 第57回内藤コンファレンスでは、「グリア・ニューロンネットワークが奏でる脳と全身機能の制御」をテーマに、グリア・神経回路研究を牽引する研究者と、免疫、代謝・内分泌、循環、腫瘍など幅広い領域の研究者が国内外から集う。グリアとニューロンはいかに情報を交換し、神経回路を形づくるのか。全身からの情報はいかに脳へ伝わり、脳はそれをどのように読み解くのか。そして脳は、グリア・ニューロンネットワークを介して全身の恒常性や病態をいかに制御するのか。分野の境界を越えた議論を通して、これらの根源的な問いに迫りたい。

 内藤コンファレンスでは、2010年に「グリアワールドから見た脳」、2023年に「グリア細胞が先導する脳機能」が開催され、グリア研究の新しい潮流を捉える国際的な議論の場となってきた。本コンファレンスはその流れをさらに発展させ、ニューロンとグリア、脳と全身を一つの動的なネットワークとして捉えることで、従来の研究領域を越えた新たな生命科学の方向性を提示することを目指す。第一線の研究者と次世代を担う若手研究者が密に交流し、新しい概念、新しい共同研究、そして次の研究領域が生まれる場となることを期待している。