講演情報

[SY16-3]薬剤師介入のメリットと課題

伊藤 太一 (大賀ペットクリニック 院長)
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1.背景と一次診療の現状:法と現実の乖離
 伴侶動物の高齢化や獣医療の高度化に伴い、一次診療における薬物治療は複雑化の一途を辿っている。しかし現在、多くの臨床現場では、法律上「獣医師または薬剤師」に限定されている調剤業務が、獣医師の指示のもとで愛玩動物看護師に委ねられているという構造的な歪みが常態化している。これはスタッフの能力の問題ではなく、圧倒的な人員・時間不足がもたらす制度的限界である。激務の合間を縫って行われる調剤は、ミリグラム未満の超微量計算や多剤併用の精査を困難にし、結果として本来不可欠な調剤監査や丁寧な副作用説明(服薬指導)といったプロセスが後回しになり、蔑ろにされがちであるという深刻なリスクを内包している。
2.薬剤師の介入がもたらす「3つのメリット」
 本講演では、現場の過密さゆえに形骸化していた領域に、薬の専門家である薬剤師が介入することで実現する、本来あるべきチーム医療の姿と具体的なメリットを提示する。
医療安全の質担保: 薬剤師による独立した処方チェックにより、複数疾患を抱える動物の相互作用や禁忌を確実にブロックし、重大な過誤のリスクを未然に防ぐ。
飼い主の安心: 獣医師が伝えきれなかった副作用やトラブル時の対処法を薬剤師が丁寧にフォローアップし、飼い主の不安を解消することで治療の継続性を高める。
法令遵守の徹底: 本来の法規定を厳格に遵守する体制へ回帰することで、愛玩動物看護師を違法性のリスクから解放し、それぞれが本来の国家資格の専門性に専念できる環境を構築する。
3.今後の課題と展望:経済的ジレンマの克服
一方で、この体制を社会実装していくための最大の課題は、「薬剤師の生み出す価値がオーナー(飼い主)からは見えにくく、価格への転換が極めて困難である」という経済的ジレンマである。調剤監査や法令遵守の徹底は本来多大な専門的労力を要するが、オーナーにとっては「ミスなく薬が届くのは当たり前」であり、プロセスの価値を実感しにくいため、調剤技術料等の形で費用に反映させづらい。結果として、薬剤師の雇用コストを病院経営の中でどう担保するかという壁に突き当たる。これに加え、薬剤師側の動物医療に関する知識不足も課題である。

本講演は、単なる理想論ではなく、この経済的な評価システムの構築も含め、真のチーム獣医療の未来へ向けたアプローチについて考察する。


【略歴】
2014年 大阪府立大学 生命環境科学部 獣医学科 卒業
2019年 福岡県 小郡市 動物病院開業

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