講演情報
[14-O-O001-03]転倒・転落の発生率調査TAIを利用した高齢者タイプ別比較結果から
*中畑 伽奈恵1、岩長 昇吾1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設それいゆ)
転倒・転落は施設内で多く起こりうる事故であり、その防止・減少に常に取り組む必要がある。今回我々は、TAIケアプランシステムにおける高齢者タイプごとの転倒・転落の発生率などを分析した。当施設の年間の転倒・転落の発生件数は延べ321件であり、TAI高齢者タイプ全12分類中、転倒・転落の発生率が最も高かったのは同率でC3とI3、次いで同じく同率でB3とI1であった。B5のみが発生率0.00%であった。
はじめに
転倒・転落は一般的にも施設内で多く起こりうる事故であり、リスクマネジメント上、その防止・減少に常に取り組む必要がある。今回我々は、TAIケアプランシステムにおける高齢者タイプごとの転倒・転落の発生率などを分析することで、事故の傾向把握と対策の検討を行った。よって、若干の考察を加えて報告する。
目的・期間・対象・方法
1)目的は、「TAIケアプランシステムにおける高齢者タイプごとの転倒・転落の発生率などを分析し、事故の傾 向を把握し、対策を検討すること」とした。
2)令和5年4月1日~令和6年3月31日までの1年間の転倒・転落に関するインシデント・アクシデントレポートで報告された入所・短期入所・通所の全利用者を対象として、TAIケアプランシステムにおける高齢者タイプを特定し、各高齢者タイプの年間の累計利用者数で割ることで、転倒・転落の発生率を算出した。
3)同様にして、移動手段ごとの発生率を算出した。
4)加えて、対象者の長谷川式認知症スケール以下HDS-Rにおける重症度群別の発生件数を算出した。
結果
1)年間のインシデント・アクシデントレポートから拾い出した転倒・転落の発生件数は延べ321件で、全体の延べ利用者数で割った発生率は0.72%であった。
2)また、TAI高齢者タイプ全12分類中、転倒・転落の発生率が最も高かったのは同率の0.94%でC3とI3、次に、同じく同率の0.74%でB3とI1であった。なお、B5のみが発生率0.00%(発生件数0件)であった。
※TAIケアプランシステムにおける各高齢者タイプの定義は次の通り。「C3;食事か排泄のいずれかに介助が必要な認知症群」「I3;食事中介助を要しない移動介助群」「B3;食事か排泄のどちらかに介助が必要な境界群」「I1;誤嚥の危険性が高い、または食事介助に時間を要する移動介助群」「B5;介護を必要としない状態」。3)一方で、移動手段別の発生率では車椅子が15.52%と最も高く、次いで歩行器9.56%、介助歩行6.67%の順である。
4)加えて、HDS-Rの重症度群別では、中等度が82件で最も多く、次いで非認知症が72件、高度50件の順であった。
考察
まず、高齢者タイプにおいて最も発生率が高かったC3は、認知機能低下が強くあるものの移動は自立している高齢者が判定される事が多く、HDS-Rの重症度群別の結果と兼ね合わせると、中等度や高度の認知機能低下があり、移動手段は車椅子や歩行器を自立して使用している可能性が高い。次に発生率が高かったB3は、認知機能低下が軽微な移動自立状態の高齢者が判定されることが多く、同じくHDS-Rの重症度群別の結果と関連付けると、非認知症で転倒・転落を生じている可能性が高いと考えられた。つまり、これらは移動自立群と安心してしまい見守りが不十分であった、危険を軽視してしまったことにより引き起こされている可能性が考えられ、現在行っている危険予測トレーニングを継続しつつ、空間内の職員配置シミュレーションも加え、よりその精度を向上させていくことが必要であると考えられる。
一方で、同率で発生率が高かったI3は、何らかの認知機能低下はあるが移動は介助である高齢者が判定されることが多く、同様に考えると中等度や高度の認知機能低下があり、移動手段は車椅子や歩行器を介助下で使用している可能性が高い。I1が、認知機能低下は重度だがBPSDの少ない寝返りも困難な高齢者が判定されることが多いことから、これらにおいては、介助時の職員の対応技術や方法に問題がある可能性が考えられ、介護技術の実践的な研修を増やしていくことの必要性が示唆された。
まとめ
我々は、事故防止委員会として常に事故の防止・減少に向けた取り組みを試みており、昨年度の施設内研究において転倒・転落のリスク表示に対する職員の認識の変化を分析した結果、情報量が増えることで、その把握が曖昧になる傾向をとらえた。事故の防止・減少のためには警告表示の総数を絞り込みつつ利用者ごとの転倒・転落リスクを簡潔に識別できるようにする工夫が一層必要だが、一方で、基礎教育のレベルで事故の発生傾向の周知を図り、対策を考えていくことも重要である。今回確認できた各高齢者タイプの転倒・転落発生率は、今後の職員教育に役立てると共に、御家族向けのリスク説明などにも利用し、施設のリスクマネジメント上、活用していく予定である。また、並行して取り組んでいる職員ごとの事故関与率の検証や能力特性の分析なども更に強化していくことで、安心して頂ける施設サービスの提供に日々努めていきたいと考える。
転倒・転落は一般的にも施設内で多く起こりうる事故であり、リスクマネジメント上、その防止・減少に常に取り組む必要がある。今回我々は、TAIケアプランシステムにおける高齢者タイプごとの転倒・転落の発生率などを分析することで、事故の傾向把握と対策の検討を行った。よって、若干の考察を加えて報告する。
目的・期間・対象・方法
1)目的は、「TAIケアプランシステムにおける高齢者タイプごとの転倒・転落の発生率などを分析し、事故の傾 向を把握し、対策を検討すること」とした。
2)令和5年4月1日~令和6年3月31日までの1年間の転倒・転落に関するインシデント・アクシデントレポートで報告された入所・短期入所・通所の全利用者を対象として、TAIケアプランシステムにおける高齢者タイプを特定し、各高齢者タイプの年間の累計利用者数で割ることで、転倒・転落の発生率を算出した。
3)同様にして、移動手段ごとの発生率を算出した。
4)加えて、対象者の長谷川式認知症スケール以下HDS-Rにおける重症度群別の発生件数を算出した。
結果
1)年間のインシデント・アクシデントレポートから拾い出した転倒・転落の発生件数は延べ321件で、全体の延べ利用者数で割った発生率は0.72%であった。
2)また、TAI高齢者タイプ全12分類中、転倒・転落の発生率が最も高かったのは同率の0.94%でC3とI3、次に、同じく同率の0.74%でB3とI1であった。なお、B5のみが発生率0.00%(発生件数0件)であった。
※TAIケアプランシステムにおける各高齢者タイプの定義は次の通り。「C3;食事か排泄のいずれかに介助が必要な認知症群」「I3;食事中介助を要しない移動介助群」「B3;食事か排泄のどちらかに介助が必要な境界群」「I1;誤嚥の危険性が高い、または食事介助に時間を要する移動介助群」「B5;介護を必要としない状態」。3)一方で、移動手段別の発生率では車椅子が15.52%と最も高く、次いで歩行器9.56%、介助歩行6.67%の順である。
4)加えて、HDS-Rの重症度群別では、中等度が82件で最も多く、次いで非認知症が72件、高度50件の順であった。
考察
まず、高齢者タイプにおいて最も発生率が高かったC3は、認知機能低下が強くあるものの移動は自立している高齢者が判定される事が多く、HDS-Rの重症度群別の結果と兼ね合わせると、中等度や高度の認知機能低下があり、移動手段は車椅子や歩行器を自立して使用している可能性が高い。次に発生率が高かったB3は、認知機能低下が軽微な移動自立状態の高齢者が判定されることが多く、同じくHDS-Rの重症度群別の結果と関連付けると、非認知症で転倒・転落を生じている可能性が高いと考えられた。つまり、これらは移動自立群と安心してしまい見守りが不十分であった、危険を軽視してしまったことにより引き起こされている可能性が考えられ、現在行っている危険予測トレーニングを継続しつつ、空間内の職員配置シミュレーションも加え、よりその精度を向上させていくことが必要であると考えられる。
一方で、同率で発生率が高かったI3は、何らかの認知機能低下はあるが移動は介助である高齢者が判定されることが多く、同様に考えると中等度や高度の認知機能低下があり、移動手段は車椅子や歩行器を介助下で使用している可能性が高い。I1が、認知機能低下は重度だがBPSDの少ない寝返りも困難な高齢者が判定されることが多いことから、これらにおいては、介助時の職員の対応技術や方法に問題がある可能性が考えられ、介護技術の実践的な研修を増やしていくことの必要性が示唆された。
まとめ
我々は、事故防止委員会として常に事故の防止・減少に向けた取り組みを試みており、昨年度の施設内研究において転倒・転落のリスク表示に対する職員の認識の変化を分析した結果、情報量が増えることで、その把握が曖昧になる傾向をとらえた。事故の防止・減少のためには警告表示の総数を絞り込みつつ利用者ごとの転倒・転落リスクを簡潔に識別できるようにする工夫が一層必要だが、一方で、基礎教育のレベルで事故の発生傾向の周知を図り、対策を考えていくことも重要である。今回確認できた各高齢者タイプの転倒・転落発生率は、今後の職員教育に役立てると共に、御家族向けのリスク説明などにも利用し、施設のリスクマネジメント上、活用していく予定である。また、並行して取り組んでいる職員ごとの事故関与率の検証や能力特性の分析なども更に強化していくことで、安心して頂ける施設サービスの提供に日々努めていきたいと考える。