講演情報
[14-O-O001-05]多職種で取り組む転倒・転落予防
*横尾 まさ美1、長谷川 亜衣1、中 聡之1、柴田 節子1、伊達 聡晃1、堂濱 久徳1 (1. 京都府 介護老人保健施設すこやかの森)
短期間にベッド横での転倒、転落を繰り返していた利用者は、独歩、小刻み歩行、前傾姿勢にて不安定な移動をされていた。転落、転倒の回避の目的の為に、居室の環境設定について多職種にてカンファレンスを行った。従来の床対応の方法ではなく、対象の利用者の認知症状、身体機能等評価し、段差をなくすことを重点的に、施設の備品等使用し、バリアフリーの床対応を試み、転落、転倒の減少につながったのでここに報告する。
【はじめに】
当施設では新規入所者の転倒危険度を分析し利用者に応じた転倒防止対応として、低床ベッドの利用、離床センサー(ベッドサイド床に置くマットタイプ)の使用、ベッドを外しシートや畳を敷きマットレスを置く床対応などの手段を行っている。今回の事例は、新規に入所した認知症専門棟の利用者が、入所後10日間に3回転倒を繰り返した。1回目と2回目は入所後6日目に、ホール内とベッドサイド、3回目は入所から10日目にベッドサイドで転倒した。そこで転倒を繰り返す利用者への対応策を他職種でカンファレンスを行い取り組んだことで、転倒・転落の減少につなげることが出来たので報告する。
【利用者情報】
A氏 80歳代 男性 要介護度3 障害高齢者日常生活自立度J2 認知症高齢者日常生活自立度IIIb HDS-R 2/30点 身長165cm、体重55KG、強度の難聴でコミュニケーション困難、意思疎通も困難な状況、すり足小刻み歩行、前傾姿勢で不安定な移動をしていた。入所時の転倒転落アセスメントシートで危険度IIIだった為、入所当初から家族の同意を得て、ベッドサイドにセンサーを置き行動観察を行っていた。
【取組内容】
3回目の転倒があった翌朝、申し送り後にカンファレンスを行った。参加者は、施設医師、看護介護部長、看護スタッフ、介護スタッフ、理学療法士、相談員、管理栄養士であった。
カンファレンスでの視点
1身体評価利用者の歩行状態はすり足小刻み歩行、ほとんど床から足を挙げることはなく歩幅も足底長の半分位ずつ、肩幅に足を開き前傾姿勢で進んでいた。四つ這いでの移動は可能であった。危険行動認識不能、自分の意のまま歩き回っていた。
2環境面
(1)入所当時から夜間は繰り返し居室から出たり、他者の部屋に入ったりしており、詰所から近い個室に収容していた。ベッドサイドにはセンサーマットが敷いてあったが、センサー反応で訪室してもすでに転倒している状態であった。→ベッドからの立ち上がり時の立位不安定による転倒と考えられたため理学療法士に評価してもらう。→床上での臀部移動、長座位までは自立であるが、床面からの立ち上がりは介助を要することから、低床ベッドを使用するより、確実に介助に入れる床対応の方針となる。
(2)今までの床対応の設定は床に畳(1cm厚)をマットレス周辺に数枚敷き、その上にベッドマットレスを置き対応していた。→薄い畳は端がそり上がり引っ掛かり躓く可能性があったため、クッション性があり柔らかい素材で個室全体がバリアフリーにできないか検討した。→1畳の畳(1cm厚)の周囲に理学療法士が体操等に使用するヨガマット(1,5cm厚)を床全体に敷き詰め、その上にフロアタイル(2mm厚)を敷き境目を無くした。畳部分にマットレス(6cm厚)を敷いた。
(3)居室内での無造作な立ち上がりを無くすために、床頭台を居室外へ移動、カーテンの裾を長座位では届かない位置で固定。室内は自由に動いて頂き廊下に出てこられた時点で分かるように居室入口の外にセンサーマットを設置した。
3生活面
フロアタイルの表面はラバー素材で滑りやすいため、就寝時は靴下を必ず脱いで頂くことを徹底した。日課に沿った生活が出来るよう声掛け誘導を行った。
4精神面(睡眠)
入所前から夜間は不眠で徘徊があり、かかりつけ医から薬効の強い睡眠導入剤が出されていたが、日中傾眠で夕方に覚醒、食事も入りにくい状態だった。→施設医師と相談し睡眠導入剤の調整を行った。
5家族との連携
転倒直後の電話連絡に加え、家族の面会時に相談員とともにフロア責任者が、数日間の転倒状況と環境設定の変更を説明した。この対応後も訪室回数は多めに行い見守りを行っていく。転倒が確実に防げるものでは無いが、頭部外傷、骨折の危険性が少しでも軽減できると考えていると説明し了承を得た。
【結果】
この取り組みを開始後、ホールで自席からの立ち上がり時に転倒されたことが1回あったが、2か月後に退所されるまで居室内での転倒は見られなかった。また、睡眠導入剤の調整により、夜間の不眠も改善していった。
【考察】
今回の事例をまとめるに当たりカンファレンスの視点を5項目に絞ったところ、それぞれの項目に対し、各職種からの意見が反映され解決策が導き出せていたことが分かった。インシデントレポートが出るたびに解決策を記入しているが、見守りの強化や出現している事象に対しての対策にとどまってしまう傾向がある。今回のように1身体状況、2環境、3生活状況、4精神面、5家族との関係などその利用者の取り巻くいろんな状態を分析し解決策を導き出す事の大切さを理解することができた。結果、手作りでの居室内バリアフリー、柔らかい素材の床の作成に繋がり、転倒・転落の減少、生活リズムの改善へと導くことが出来たと考える。
今回、対応を決定する際に理学療法士と看護・介護スタッフ間で意見の相違が見られた。理学療法士は機能維持の観点からベッド対応を推奨し、看護・介護スタッフは安全面を重視したいとの思いで床対応を推奨していた。カンファレンスの結果居室内では安全を重視することにして、一方日中リハビリテーションで機能維持が図れるよう取り組んでいくことで意見がまとまった。このように他職種間の連携、情報交換が必須であり、その情報交換のために、カンファレンスを行い利用者へのケアの方向性を統一していくことの重要性を改めて実感した。
【まとめ】
身体拘束をしないこと、事故防止対策をした上で利用者の尊厳を守りつつ安全に生活して頂くための環境を考えていくことに日々の努力が必要性であると感じている。今後も他職種の意見も踏まえて対応できるように取り組んでいきたい。
当施設では新規入所者の転倒危険度を分析し利用者に応じた転倒防止対応として、低床ベッドの利用、離床センサー(ベッドサイド床に置くマットタイプ)の使用、ベッドを外しシートや畳を敷きマットレスを置く床対応などの手段を行っている。今回の事例は、新規に入所した認知症専門棟の利用者が、入所後10日間に3回転倒を繰り返した。1回目と2回目は入所後6日目に、ホール内とベッドサイド、3回目は入所から10日目にベッドサイドで転倒した。そこで転倒を繰り返す利用者への対応策を他職種でカンファレンスを行い取り組んだことで、転倒・転落の減少につなげることが出来たので報告する。
【利用者情報】
A氏 80歳代 男性 要介護度3 障害高齢者日常生活自立度J2 認知症高齢者日常生活自立度IIIb HDS-R 2/30点 身長165cm、体重55KG、強度の難聴でコミュニケーション困難、意思疎通も困難な状況、すり足小刻み歩行、前傾姿勢で不安定な移動をしていた。入所時の転倒転落アセスメントシートで危険度IIIだった為、入所当初から家族の同意を得て、ベッドサイドにセンサーを置き行動観察を行っていた。
【取組内容】
3回目の転倒があった翌朝、申し送り後にカンファレンスを行った。参加者は、施設医師、看護介護部長、看護スタッフ、介護スタッフ、理学療法士、相談員、管理栄養士であった。
カンファレンスでの視点
1身体評価利用者の歩行状態はすり足小刻み歩行、ほとんど床から足を挙げることはなく歩幅も足底長の半分位ずつ、肩幅に足を開き前傾姿勢で進んでいた。四つ這いでの移動は可能であった。危険行動認識不能、自分の意のまま歩き回っていた。
2環境面
(1)入所当時から夜間は繰り返し居室から出たり、他者の部屋に入ったりしており、詰所から近い個室に収容していた。ベッドサイドにはセンサーマットが敷いてあったが、センサー反応で訪室してもすでに転倒している状態であった。→ベッドからの立ち上がり時の立位不安定による転倒と考えられたため理学療法士に評価してもらう。→床上での臀部移動、長座位までは自立であるが、床面からの立ち上がりは介助を要することから、低床ベッドを使用するより、確実に介助に入れる床対応の方針となる。
(2)今までの床対応の設定は床に畳(1cm厚)をマットレス周辺に数枚敷き、その上にベッドマットレスを置き対応していた。→薄い畳は端がそり上がり引っ掛かり躓く可能性があったため、クッション性があり柔らかい素材で個室全体がバリアフリーにできないか検討した。→1畳の畳(1cm厚)の周囲に理学療法士が体操等に使用するヨガマット(1,5cm厚)を床全体に敷き詰め、その上にフロアタイル(2mm厚)を敷き境目を無くした。畳部分にマットレス(6cm厚)を敷いた。
(3)居室内での無造作な立ち上がりを無くすために、床頭台を居室外へ移動、カーテンの裾を長座位では届かない位置で固定。室内は自由に動いて頂き廊下に出てこられた時点で分かるように居室入口の外にセンサーマットを設置した。
3生活面
フロアタイルの表面はラバー素材で滑りやすいため、就寝時は靴下を必ず脱いで頂くことを徹底した。日課に沿った生活が出来るよう声掛け誘導を行った。
4精神面(睡眠)
入所前から夜間は不眠で徘徊があり、かかりつけ医から薬効の強い睡眠導入剤が出されていたが、日中傾眠で夕方に覚醒、食事も入りにくい状態だった。→施設医師と相談し睡眠導入剤の調整を行った。
5家族との連携
転倒直後の電話連絡に加え、家族の面会時に相談員とともにフロア責任者が、数日間の転倒状況と環境設定の変更を説明した。この対応後も訪室回数は多めに行い見守りを行っていく。転倒が確実に防げるものでは無いが、頭部外傷、骨折の危険性が少しでも軽減できると考えていると説明し了承を得た。
【結果】
この取り組みを開始後、ホールで自席からの立ち上がり時に転倒されたことが1回あったが、2か月後に退所されるまで居室内での転倒は見られなかった。また、睡眠導入剤の調整により、夜間の不眠も改善していった。
【考察】
今回の事例をまとめるに当たりカンファレンスの視点を5項目に絞ったところ、それぞれの項目に対し、各職種からの意見が反映され解決策が導き出せていたことが分かった。インシデントレポートが出るたびに解決策を記入しているが、見守りの強化や出現している事象に対しての対策にとどまってしまう傾向がある。今回のように1身体状況、2環境、3生活状況、4精神面、5家族との関係などその利用者の取り巻くいろんな状態を分析し解決策を導き出す事の大切さを理解することができた。結果、手作りでの居室内バリアフリー、柔らかい素材の床の作成に繋がり、転倒・転落の減少、生活リズムの改善へと導くことが出来たと考える。
今回、対応を決定する際に理学療法士と看護・介護スタッフ間で意見の相違が見られた。理学療法士は機能維持の観点からベッド対応を推奨し、看護・介護スタッフは安全面を重視したいとの思いで床対応を推奨していた。カンファレンスの結果居室内では安全を重視することにして、一方日中リハビリテーションで機能維持が図れるよう取り組んでいくことで意見がまとまった。このように他職種間の連携、情報交換が必須であり、その情報交換のために、カンファレンスを行い利用者へのケアの方向性を統一していくことの重要性を改めて実感した。
【まとめ】
身体拘束をしないこと、事故防止対策をした上で利用者の尊厳を守りつつ安全に生活して頂くための環境を考えていくことに日々の努力が必要性であると感じている。今後も他職種の意見も踏まえて対応できるように取り組んでいきたい。