講演情報

[14-O-O001-06]エリアを分ける事でのリスク回避への取り組み

*三木 和幸1、三ツ井 遊歩1 (1. 長野県 ウィングラス)
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当施設は構造上、廊下が約80mと長く縦長の居室配置である。センサーを使用する利用者やコールを押す利用者が全体の約5割おり、各居室に分散している。夜間帯は端から端まで1人で対応しなければならず、センサーやコールが重なると間に合わず転倒したケースもあった。そこで、導線の短縮、ADLに応じた居室エリア分けを試みた結果、リスクが約70%回避した取り組みを報告する。
【はじめに】
当施設は2フロア90床の超強化型老健で、平均介護度は3.6、平均年齢は90.3歳である。
1階においては64床の居室が廊下の両側に配置され導線が長い。夜間帯は2階22床と合わせて介護職員3名と看護職員1名が勤務している。主に1階は介護職員が受け持つが、休憩等で2名になる時間帯もある。センサーが重なるとその場を離れることができず、スピーディーな対応が取れないため過去には2人体制でコール対応可能な勤務も考えた。しかし、人を増やしてもセンサー、コールが重複すると対応しきれず転倒等のインシデントに繋がっていた。すぐに行きたいけど行けないという申し訳なさ、そんなジレンマと転倒させてしまった事に自身を責め、精神的にも負担が大きかった。
今回、業務改善の一環として環境整備を行い一直線上でのセンサー、コール対応をエリア化した。その結果、夜間帯での利用者のリスクが回避され転倒、転落におけるインシデントの減少にも繋がった。
【目的】
センサー、コール対応者の居室を一直線上での対応からエリア化することで夜間帯のリスク回避ができる。
【研究期間】
令和5年4月~令和6年5月
【経過】
1)1か所であったステーションを2か所とする
メインステーションからのコールやセンサー対応は距離が長く、対応に時間が掛かった。また、夜勤者全員でメインステーションにてコール待機するのではなく2か所、又は3か所に分散してコール対応することで居室への距離も短縮出来るのではと考え、1階フロアのほぼ中央に配置されている物置状態になっていたサブステーションを活用することにした。また、サブステーション近くでも職員が動きやすく待機出来るように環境を整えた。
2)エリア選定、メンバーを検討し居室図面を作成する
ケアマネ、相談員、看護主任、介護主任・副主任がサブステーション周辺の居室を円の視点のイメージで対応出来るようにセンサー対応のエリア、自立者対応のエリア、オムツ使用をメインとした全介助のエリア等、利用者の状態に応じたエリアを検討し居室図面を作成した。また、メインステーション前を新規入所者のエリア選定のための評価部屋として配置した。
3)エリア化の実行をする
職員1人で同時に対応ができるように導線を短くするために、職員の意見を聞きながら利用者の配置を調整した。しかし、8月中旬に新型コロナウイルス感染症の影響でエリア分けは中断され、エリア分けの実行は8月末となった。
エリア分け前後5か月の夜間帯の転倒・転落インシデントの集計を行った。また、エリア分け前とエリア分け3か月後と8か月後に介護職を中心としたアンケート調査を行った。
【結果】
(図1)
(図1)がエリア分け前後の転倒・転落インシデントの集計となる。5カ月後の5件のうち2件は自立者エリアでの転倒だった。
【介護職を中心としたアンケート調査】
1)インシデント件数は減少されると見込まれますか?
減少する→100%(エリア分け前)
インシデント件数は減少したと思いますか?
減少した→75% 変化しない→25%(エリア分け3か月後)
減少した→92% 変化しない→8%(エリア分け8か月後)
2)職員の身体的負担は減少されると見込まれますか?
減少する→83% 変化しない→17%(エリア分け前)
職員の身体的負担は減少されましたか?
減少した→67% 変化しない→25% 増加した→8%(エリア分け3か月後)
減少した→92% 変化しない→8%(エリア分け8か月後)
3)職員の精神的負担は減少されると見込まれますか?
減少する→75% 変化しない→25%(エリア分け前)
職員の精神的負担は減少されましたか?
減少した→75% 変化しない→25%(エリア分け3か月後)
減少した→83% 変化しない→17%(エリア分け8か月後)
【考察】
エリア分けをしたことにより、同じエリア、同室で転倒リスクのある利用者をすぐに対応出来るようにしたことでインシデントの減少に繋がったと考えられる。
インシデント件数のアンケート調査ではエリア分け前では全職員が減ると見込んでいた。しかし、3か月後の調査では減少した実感がなく、75%と低くなった。8か月後には92%となり、夜勤明けでのインシデント対策会議の開催が大幅に減ったことが実感に繋がったと思われる。
身体的負担では、エリアを分けたがセンサーやコールの回数には変化がない為、エリア毎で対応する職員に偏りが出て、負担増加に繋がった。8か月後のアンケート調査では令和6年5月より本格稼働したICT機器でのカメラモニターから利用者の状況を把握出来るようになったことで負担軽減になったと思う。また、精神的負担においては転倒させてはいけないという思いにより、減少に至らなかった。
アンケート調査前後において、退職者や新入職者、日勤のみの職員が多く、エリア分け前後を経験している対象者が約半数となり、アンケート時期の検討が必要と感じた。
評価部屋で評価後に状態に合わせたエリア居室への移動は、評価日を決めなかったことが評価に時間がかかった要因と考える。また、転倒、転落インシデント発生により移動もできなかった。
【おわりに】
老健という入退所がある中で時間の経過でADLも変化し、センサー対応ではなかった利用者も転倒等によりセンサーを使用する事でエリア分けが崩れることになる。認知者で環境の変化に対応しづらく、人間関係も複雑な利用者の居室移動には多くの動力と協力が必要となる。しかし、利用者の身近にいる我々介護者として手を抜かず、ADLの変化、PDCAサイクルを意識し、利用者の状態に合わせた職員の待機位置の検討も随時行い、リスク回避のために少ない人員でも対応出来る、負担のない働きやすい職場づくりを今後も継続していきたい。
今回は夜間帯を中心とした研究であるが、日勤帯での転倒・転落のインシデントも減少している。日勤帯での様子も知ることで更なるリスク回避へ生かしていきたいと考える。