講演情報

[14-O-O002-07]ヒヤリハット報告件数増加へのアプローチとその効果

*井上 ルミ1 (1. 石川県 陽翠の里)
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法人統一のレベル分類に沿った報告システムを作り、定義や報告ルートを明確化した。しかし報告を集め分析し、事故防止に活かす仕組みを作ったものの、ヒヤリハット報告の件数が少なく、ヒヤリハット報告を事故防止に活かすと言い難い状況だった。なぜ報告件数が少ないのか、報告件数を増やすためにはどうしたら良いのかを考え、様々な働きかけを行った結果、報告件数が大幅に増加し転倒転落事故を減少させることができた。
【はじめに】
速やかに適切なルートで事故ヒヤリハット報告がされ、重大事故の発生を予防するに役立つ貴重な情報資料として活用できることを目的に、法人統一の事故ヒヤリハット報告システムをR3.4に構築した。
R3.4より、レベル分類に基づく報告ルートに沿っての事故ヒヤリハット報告と報告内容の周知や分析を行ってきたが、ヒヤリハット報告自体が少なく、報告を事故防止に活かすとはいいがたい状況が続いた。
そのため、なぜ報告が少ないのか、どんな理由があるのかを調査し、報告件数増加に向けての働きかけを継続した結果、ヒヤリハット報告が大幅に増加し、事故件数は減少した。特に転倒転落事故が減少、骨折事例も半減した。ヒヤリハット報告が増加・定着するまでの過程とその効果を報告したい。
【現状】                    
R3.4より、法人共通のレベル分類・報告フローチャートの運用を開始した。
ハインリッヒの法則を説明する等しながら、報告を働きかけてはいたが、R3年度の事故ヒヤリハット報告数は、
 事故報告総数 298件 うち転倒転落事故 154件
 ヒヤリハット報告総数227件 うち転倒転落関連 136件
とヒヤリハット報告件数よりも、事故件数が上回っていた。
また、事故発生時に原因を確認すると、「以前からそうだった」「時々そんなことがあった」と事故の予兆となるヒヤリハットな出来事があった事が発覚。しかしヒヤリハット報告はなかった。
【方法】
そのため、R4年度よりヒヤリハット報告数増加にむけて、なぜ報告数が少ないのかを、職員への聞き取りを行い確認したところ、
・どんな事象が報告対象なのかわからない
・こんなことで報告するのか?報告する意味があるのか?と言う風潮
・危なかったことはその場で言い合っているからと報告する必要はない
・普段からしっかり利用者のことを見ているからヒヤリハットはない
・報告して、それがどう活用されるのかわからない
といった理由があることがわかった。
ヒヤリハットとして出す事例がわからない、ヒヤリハットはないという声に対し、他事業所(ヒヤリハット報告が進んでいる事業所・ネットから集めて等)の報告例を紹介した。利用者が転びそうになった、以外の視点・気付きを増やした。報告例に自分が体験したことのある事例も多く、報告の増加につながった。
ヒヤリハット報告をすることは自分のミス・落ち度のイメージを持っている職員も多く、再度報告の意味・効果について説明、職員の責任を追及するものではなく再発防止につなげるためのものであることをアピールした。
報告をする人としない人の差も課題としてあげられたため、しない人(出せない人)へのアプローチを考えた。その日の出来事を振り返り「それってヒヤリハット報告だね」と指摘を繰り返し、ヒヤリハットの視点を養った。
継続した実践から報告数が増えてきたこともあり、R4.9よりヒヤリ分析を実施した。報告されたヒヤリハットを集計し、人ごとの傾向や、事例の傾向を分析、現場にフィードバックした。ヒヤリハット報告を基に事故防止策を立てるようになった。
事故が起こる前に対策を講じるようになり、ヒヤリハット報告が事故を未然に防ぐためのものであることを実感できた。
【結果】
転倒転落に関する事故・ヒヤリハット報告数の変化
 R3年度 事故 154件  ヒヤリハット 136件
      骨折事例 10件
 R4年度 事故 88件  ヒヤリハット 277件
      骨折事例 4件
 R5年度 事故 93件  ヒヤリハット 397件
      骨折事例 4件
R3年度はヒヤリハット報告よりも事故報告数が上回っていた。
R4年度より、ヒヤリハット報告数増加に向けての取り組みを行った事で、ヒヤリハット報告は倍増した。
ヒヤリハット報告の増加に伴い、事故件数は半減、骨折事例も半減した。
その成果をグラフ化し、報告してきたヒヤリハットが事故防止に役立ったことを実感してもらった。
R5年度も取り組みを継続した。報告数の維持と、事故発生件数の抑制に効果があった。
【考察】
報告件数が増加しない原因は、報告をする目的もわからず、何を報告したら良いかもわからない状況にあった。ヒヤリハットと気付くこともできず報告数の増加につながらなかったと思われる。
改めてヒヤリハット報告の目的を周知し、「例えば・・」と事例を提示したことで事故につながりかねない状況のイメージが広がったと思われる。そのことが危機意識の向上につながり、職員間の「それってヒヤリハットじゃない?」「報告しようね」の声かけも増えた。
ヒヤリハット報告が増えた事で、転倒を起こしそうな方、同じようなヒヤリハット事例に対しての予防策を立てる事ができた。
ヒヤリハット報告そのものが事故への注意喚起になった。
それらが影響し事故発生件数の減少につながったと思われる。
実際にヒヤリハット報告が、事故防止に活かされていることが実感できたことが、翌年の報告数維持にもつながっている。
【まとめ】
まだまだ、「出せと言われるから出す」という感覚が抜けきらない、出す人とそうでない人の差や、働きかけが無いと報告数が減少するため、常に声かけが必要である等、課題は残る。
しかし、ヒヤリハット報告が事故を未然に防ぐためにある事が意識付けられたことで、日々危険に対するアンテナを張り、報告を通じて個人の気付きを組織としての対策につなげていく流れができた。
「介護・医療現場における転倒・転落 実状と展望 10団体共同声明」にあるように、転倒転落事故の背景は複雑多彩で、確実に予測回避する事は不可能である。それでも多くのヒヤリハット事例を蓄積する事で、事故防止策を講じる事はできる。
事故を未然に防ぐための貴重な情報資料としてのヒヤリハット報告の活用を続けて行きたい。