講演情報

[14-O-O003-01]クレームを無くせ!転倒・転落対策と家族共有の重要性

*高見 亮介1、境澤 大貴1 (1. 岐阜県 介護老人保健施設寺田ガーデン)
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介護老人保健施設に入所されている利用者は、様々な要因から転倒・転落リスクが高い状況があり、骨折事故となった場合、クレームなどに繋がるケースも見受けられる。そこで、転倒・転落リスクのアセスメントフローの見直しと、家族へ利用者の転倒・転落リスクと対策の共有を行うまでのマニュアルを作成し、実行に移した。その結果、骨折件数の変化は見られなかったが、転倒件数の減少とクレームの減少に繋がった。
【はじめに】
 当施設は、利用定員100名の超強化型介護老人保健施設であり、令和5年度の平均ベッド回転率は18.9%、月の平均入退所総数は219.5名と利用者の入れ替わりが多い施設である。高齢者の転倒は老年症候群の一つとされており、転倒予防策を実施していても一定の確率で発生するといわれており、当施設でも重要な課題の一つとして取り組んでいた。

【発表の目的】
 当施設の入所者の約6割は医療機関から入所されている。契約時に転倒は起こりうること、それらの対策及び、緊急時の対応などの事前説明を行ってきたが、コロナ禍で入院中の面会機会が減少したこともあり、家族が利用者の身体機能や転倒リスクを把握されていないことが多く見受けられた。このような状況下で、入所1週間後に1人で居室に移動し車いすからベッドへ移乗しようとして転倒し骨折された事故が発生した。職員は利用者が車椅子の自走ができることを把握していたが、家族は移動を含めて全ての動作に介助が必要との認識を持っており、1人で動けないのになぜ骨折したのかとクレームに繋がってしまった。この事案を機に、転倒リスクに関するアセスメント内容や流れだけでなく、家族との共有についてもマニュアルの整備を行い、実行に移した結果、転倒件数の削減とクレームの削減に繋がったため、ここに発表する。

【取り組み内容】
(1)アセスメントツールと運用の見直し
 当施設では、認知症状・運動障害・薬剤など8つの分類からなる「転倒・転落アセスメントシート」を活用しており、入所初日に介護職員・リハビリ職員・看護職員でアセスメントを行い、転倒リスクを共有する事とした。加えて、移動の自立判定をする際には、下肢筋力と歩行能力テストを行い、一定の基準を設けることにした。また、「転倒・転落アセスメントシート」は入所初日のみに限らず、3ヶ月毎の施設サービス計画更新時や転倒が起こった際にも実施し、継続的なリスク評価を行うこととした。転倒リスクの周知方法として、各フロアの利用者の情報をまとめた「ケア一覧表」を使用しており、転倒リスクの高い利用者を色付けし、意識付けを行った。これらの取り組みを行った上で、「24時間状態把握・事故防止のための安全確認記録」を用いて入所後3日間の行動を記録することとした。
(2)居室の環境設定
 入所初日はリハビリ職員が生活動作の評価を行い、介護職員と協議し、超低床ベッドやL字柵の使用や、車椅子や歩行補助具の使用や配置場所など決めている。その内容を「居室環境設定シート」に記載し、ベッドサイドに設置し、職員が入退室する際に、毎回環境設定ができているか必ず確認できるようにした。
(3)見守り機器の活用方法
 当施設では眠りスキャンを全床、見守りカメラを50台導入している。また、ナースコールと連動し、アラートがなった際に、職員が持つスマートフォンにコールとカメラの映像が通知される。そのため、利用者、家族の同意を得た上で入所後3日間は眠りスキャンのコール設定と見守りカメラを設置し、日中・夜間の行動評価を行うこととした。転倒リスクや3日間の行動記録から転倒リスクが高い利用者は、改めて利用者、家族に同意を得た上で継続して使用することとした。
(4)家族への情報共有
 入所前の施設見学や契約の際に、転倒の危険性について、当施設でできる対策、事故が起こった際の対応、損害賠償等の内容を契約書や同意書、居室環境を確認しながら説明を行っている。それに加え、入所当日に施設医から改めて転倒は老年期症候群の一つであり、完全に防ぐことは難しい旨を説明している。
 入所後には転倒リスクのアセスメントを行った結果を、4日目に「転倒・転落リスク報告書」に沿って家族へ転倒リスクの報告と対策を報告することとした。また、転倒リスクの高い利用者には、骨密度のデータを参考に骨粗鬆症に対する治療や転倒時の衝撃を和らげるための福祉用具の提案を行った。

【結果】
 令和4年度の入所利用者の転倒の件数は106件、そのうち居室内での転倒は74件、骨折事故は3件あり、転倒に関するクレームは1件であった。令和5年度の転倒の件数が90件、そのうち居室内での転倒が56件、骨折事故は3件で転倒に関するクレームは0件であった。転倒リスクに関するアセスメント内容や流れと家族共有のマニュアル作成前後を比較すると、転倒件数、特に居室内の転倒件数減少がみられ、クレームも0件であった。

【考察】
 今回の取組から、介護職員・リハビリ職員・看護職員が分類ごとにアセスメントする項目を決めたことで、各専門職の目線からアセスメント・対策の検討が行えた。その結果、その内容をケアカンファで共有することで全職員が転倒リスクを把握でき、日々の業務から転倒リスクについて意識が出来るようになった。また、転倒リスクの評価の頻度が増えたことにより、利用者の転倒リスクの変化に早期に気づくことできた。さらに、転倒リスクが高い利用者にカメラセンサーを設置することでアラートが同時に鳴った際に、すぐに訪室すべきかの判断ができ、見守りすべき利用者の優先順位が分かりやすくなったことが、転倒件数の削減、特に居室内での転倒件数の削減につながったと考える。
 高齢者の転倒リスクについて家族へ説明を行っていたが、利用者の転倒リスクの共有は施設サービス計画説明時や家族面談時など入所して2週間~1ヶ月程を要していた。利用者の身体機能や転倒リスクを早期に家族へ共有することで、家族と施設側との認識の違いが減り、転倒事故が発生してもクレームまで至らなかったと考える。

【まとめ】
 転倒事故から骨折に至った件数は3件と変化がみられなかったが、転倒件数とクレームの削減につなげることができた。今後は、転倒事故が起こっても骨折などの重傷化しないような環境作りやハード面の見直しも行っていきたい。