講演情報

[14-O-O003-02]「骨折事故ゼロを目指して」~青梨子荘の軌跡~

*笠井 康夫1 (1. 群馬県 介護老人保健施設青梨子荘)
PDFダウンロードPDFダウンロード
転倒による骨折事故ゼロを目指して、数年間にわたり取り組み骨折事故が減少に至るまでの過程を報告する。転倒予防のためにセンサー類を使用する中で発生した新たな課題について、新しいセンサー類の導入や対応の変更を実施した。転倒と骨折について減少には至ったが、転倒に至るご利用者の状態や状況、転倒による骨折受傷の有無の相違等についての検討が今後の課題である。
<はじめに>
高齢者の骨折は骨折による機能低下だけでなく、廃用症候群による全身の機能低下を進行させてしまい寝たきり状態にまで陥る危険がある。当施設でも骨折事故が複数発生しこれを是正するために取り組んできた。骨折に至る原因は転倒が大多数を占めている。近年、転倒防止に取り組み、骨折事故を減少できたので、流れについて紹介したい。
<過程>
転倒予防の方法として、手摺等の環境整備や動作を感知して知らせるセンサー使用などがある。今回はセンサー類についての取り組みを紹介する。
平成25年は骨折事故が年間転倒件数178件中8件発生していた。何とか是正することはできないかと考え、以前から使用している、コールマットの他に、ベッドに敷くタイプ(ベッドコール)と、車椅子の座面にのせるタイプ(座コール)の2種類の離床センサーを導入した。
ベッドコールはコールマットに比べ、ベッドでの体動を感知し知らせてくれるので、ご利用者がベッドから起き上がり歩き出す前に対応できるため、転倒予防に繋がった。また座コールも車椅子にて座面から臀部が離れれば反応し知らせてくれるのでこちらも転倒予防に繋がった。しかし、センサーを使用することで新たな課題が出てきた。
課題(1)ベッド上で寝返りをするだけでもセンサーが反応する為、訪室回数が増加。
課題(2)ご利用者がセンサーを気にして安眠が出来ない。センサーを外してしまう。
平成27年頃より、課題に対して、新たに様々な状況に対応できるようセンサーの種類を増やしていった。内訳は既存のコールマット、ベッドコール、座コールの他に、サイドコールを導入した。サイドコールは、ベッドの中央ではなく、ご利用者が端坐位になった時にセンサーの上に座ることで反応するタイプであり、ベッド上での体動があり端坐位まで自力でなれるも動作自体が緩慢なご利用者に設置した。
平成28年には赤外線・超音波センサーを導入した。これは認知症のご利用者でベッドコールやサイドコールを設置しても、ご利用者自身が外してしまう場合に、ご利用者には見えないベッドの裏側に設置することで端坐位になり足をベッドから下ろした時点でセンサーが反応してくれた。また、動きの速いご利用者のときにはベッドから起き上がった時点で反応するようヘッドボードに設置することもあった。ご利用者に合ったセンサーの使用により無駄な訪室が減少した。ご利用者も頻回の訪室が無くなったので安眠も確保できた。
同年に生体センサー付ベッドコールも導入した。通常のベッドコールはマットレスの上に設置するが、これはマットレスの下に設置ができた。また生体センサーとしても使用できたため看取り対応にも役立った。
6種類のセンサーを使用することとなり、種類が増えたことで使い分けができ、骨折事故は平成28年には転倒数147件中4名と減少した。しかし、平成30年には、再度転倒数239件、骨折事故8名と増加した。センサー類の種類は増えたのと同じくセンサーを使用するご利用者も増加したこと、個々のセンサーの使用についてご利用者とのマッチングが不十分であった状態での使用により、センサー反応が頻回で、職員がその対応に追われており、それでも対応が間に合わず、転倒事故が発生してしまった。また、センサーの対応に追われ通常の業務が後廻しになってしまうなどの課題が発生した。
対応策として、各種センサーの機能が転倒リスクのあるご利用者の能力や行動容態に合うようカンファレンスにて検討し、転倒リスクに繋がるような動きがあった場合に確実にセンサーが反応するようマッチングを行った。
結果として、平成31年には転倒数201件、骨折事故4名となった。頻繁なセンサー反応による訪室の減少、ご利用者の安眠確保、骨折事故の減少に繋がった。しかし、まだ課題は残っていた。
課題(1)センサー増加により受信機の数も増加し職員が複数の受信機を所持する。
課題(2)複数のセンサーの電池確認と交換、受信機の充電を毎日実施。
課題(3)センサー反応が同時期に複数反応すると後半部分の反応を受信機が受信できない。
課題(4)センサー反応の履歴がすぐに上書きされてしまう。
これらの課題は全て機器に要因があるため、改善に至らなかった。
令和3年に全てのベッドをナースコール連動型センサー付ベッドと交換した。このベッドは、前述の座コールを除く5種類のセンサー類の機能を網羅しているため、5種類のセンサー類を統合できた。さらにこのセンサー付ベッドを導入することで、課題の(1)~(4)を改善でき、ご利用者の安全と職員の負担軽減に繋がった。また、センサー反応の履歴が残ることで、ご利用者の行動を確認することができるので、センサーの感度の設定が更に容易になった。
<結果>
転倒数と骨折数の推移を比較すると、平成25年からの3年間の平均転倒数は155回、平均骨折数が6.7名に対し令和3年から令和5年までの3年間の平均転倒数は139回、平均骨折数が2.7名であった。転倒数が増加すると骨折数も増加する傾向ではあるが、正比例はしていない。転倒はベッド付近で発生するものだけでなく、車椅子や歩行しているご利用者による転倒も発生する。また、転倒し骨折しやすいご利用者と転倒を繰り返しても骨折しないご利用者もいることも事実である。これらについての検討が今後の課題と考えている。
<考察>
転倒を予防するために、センサーを使用して対応してきたが、都度、数々の課題が新たに発生していた。機器の発展とともにそれらの課題も改善してきている。これは、課題を掌握し、改善に向けた取り組みの中で新しい機器を導入することができたためであると考える。
また、センサーに頼ることだけでなく、環境整備や福祉用具の選定、リハビリや栄養状態の改善等様々な要因により骨折が減少しているとも思われる。転倒はゼロには出来ないが、限り無くゼロに近づけるよう、これからも取り組んでいきたい。