講演情報
[14-O-O003-03]気づきシートを活用した職員の気の緩みを防ぐ
*滝本 真美子1 (1. 愛知県 介護老人保健施設メディコ阿久比)
高齢者虐待の件数は年々増加傾向にあり、当施設でも重要な課題となっている。今回、虐待の未然防止のため「気づきシート」を活用し、よい声掛けや介助方法の意見や、虐待につながる可能性のある声掛けや介助方法など現場の意見を全職員から聴取した。その結果、具体的な良い気づきや悪い気づきが判明し、それらを全体に周知することでの効果を考察し、今後の課題も見えてきたためここに報告する。
【はじめに】
高齢者虐待の件数は年々増加傾向であり、介護従事者による件数も増加している。当施設においても研修の実施など、虐待防止の取り組みは行っているものの、必ずしも虐待が起こらないとは言えない。コロナによる面会制限も徐々に緩和しているが、以前のようなオープンな状態ではないため、家族や他事業者の目が届きにくく、職員個々の意識を高めていく必要がある。また、直接介護現場を見ることが出来ないことも多く、家族と職員との関係性も以前より深めにくい状況の中、些細な言動が虐待と言われかねない状況となっている。そこで、職員個々の虐待防止への意識を高めるため、「気づきシート」を活用し、虐待防止対策に取り組んだ。
【方法】
対象は令和4年5月時点で在職中である当施設全職員181名。内容は、他職員の言動や介助方法などの良い行動や悪い行動を「気づきシート」の用紙に記入し提出してもらった。
記入前にあらかじめ研修を実施し、「気づきシート」の目的と、記入例などを明示した。「気づきシート」の記入方法は、良い気づきか悪い気づきに丸をつけ、内容は自由記載とした。記名欄を設けてはいるが、匿名の提出でも可能。内容の確認は、事務長と師長のみと、記入前に職員にも周知した。「気づきシート」に記載された内容を抜粋し、良い気づき、悪い気づき共に全職員に周知した。「気づきシート」の効果を確認するために、実施後アンケートを行った。アンケートは、無記名にて実施し、「効果がある」「やや効果がある」「あまり効果がない」「効果がない」の4段階の聴取と、自由記載欄を設けた。虐待防止の効果、接遇改善の効果、気づきシートの波及効果、気づきシート継続についての質問を行った。
【結果】
「気づきシート」の内容は、良い気づきでは、食事介助時に笑顔で声掛けをしていた。新人さんが利用者さんから声をかけられた際は必ず立ち止まり話を聞いていた。新人さんのフレッシュな感覚に良い影響を受けたいと思う。という内容があった。悪い気づきでは、トランスファー時に利用者のペースに合わせず無理やり向きを変えているように見える。車椅子移動の介助方法が乱雑に見える。家族の視点からも良くない援助方法だと感じる。等具体的な内容が多かった。
実施後アンケートでは、虐待防止と接遇改善について、「効果ある」「やや効果ある」が約90%あった。普段の自分の行動を客観的に振り返り初心に戻れる。虐待に繋がる行為になっていないか慎重な行動になった。と前向きな意見が多かった。マイナスな意見としては、虐待がだめだと押さえつけられているだけで、虐待をしてしまう原因(=職員のストレス)を改善しなければ意味がない。気づきシートに書かれないように気を付けているだけで本当の意味の接遇としては薄い。と厳しい意見があった。継続については、継続した方が良いが52%、どちらとも言えないが43%であった。慣れると業務のように適当になってしまう。プレッシャーになる。偏見的な意見がでてこないか。監視し合うように感じる。とマイナスな意見が多かった。
【考察】
良い気づきを挙げてもらう効果として、マズローは、1.必要最低限の生理的欲求(食欲・睡眠)、2.安全欲求、3.仲間に受け入れてほしいという社会的欲求、4.価値ある人間だと認められたいという承認欲求、5.あるべき姿になりたいという自己実現欲求と、5段階で欲求を分けている。「気づきシート」を通して、他者からの評価や上司からのフィードバックにより、社会的・承認欲求が満たされ、他者の言動を知ることで、自分にとっての理想を見つける手助けができるのではないかと考える。そして、これらの欲求を少しでも満たすことで個々のモチベーションの維持・向上を図ることができるのではないかと思われる。
悪い気づきを挙げてもらうことで、1.周囲の目があり抑止力になる。不適切な対応がエスカレートしなくなる。と虐待を助長する組織風土の防止になる。2.自分の言動を客観的に振り返るきっかけとなる。良い対応を学べる。第三者が言語化することで他スタッフにも伝達することが出来た。と職員教育となる。3.当たり前と思っていた言動も他者から見れば虐待となりうるので共通の認識をもつきっかけとなる。慣れで知らず知らずのうちに気づけなくなっている事を他者から知る機会となる。と認識のズレの確認となる。結果的に、言いにくいことを伝えられ、早期に対応することで大きな問題になることを防ぐことができる。といった点が考えられる。
実施後アンケートの結果から、今後の課題として、「気づきシート」の実施回数が多いと内容が希薄になり、プレッシャーでストレスの原因にもなってしまう。行き過ぎた監視とならないように、集計方法や回数の検討が必要である。提出するだけとならないよう、問題提起があれば指導やトレーニングが必要であり、メンタルヘルス対策や具体的な指導は定期的に開催していく必要がある。業務内容の問題はどこの職場でもあり、問題が起こる前に、常日頃から業務改善を意識して取り組む必要がある。
【まとめ】
「気づきシート」の活用により、自分自身の行動に気づき行動を改めるきっかけとなるだけでなく、周囲からの評価やフィードバックで、欲求が満たされ、モチベーションの維持・向上に繋がると考えられる。小さな問題を早期に発見し対応できるので、虐待の芽を摘むことができる、各自が意識して勤務にあたることで、気の緩みを防ぐことができる。しかし、態度や気持ちを改めることは最終的には個人に任されてしまうため、「気づきシート」の活用により虐待防止の基本の「情報伝達」の土台を作ることが出来ればと思う。告げ口ではなく自分自身気付けてよかったと思える良い機会と思ってもらえるよう、職員間で思ったことを言い合え、改善できる職場環境になることを望み取り組んでいきたい。
高齢者虐待の件数は年々増加傾向であり、介護従事者による件数も増加している。当施設においても研修の実施など、虐待防止の取り組みは行っているものの、必ずしも虐待が起こらないとは言えない。コロナによる面会制限も徐々に緩和しているが、以前のようなオープンな状態ではないため、家族や他事業者の目が届きにくく、職員個々の意識を高めていく必要がある。また、直接介護現場を見ることが出来ないことも多く、家族と職員との関係性も以前より深めにくい状況の中、些細な言動が虐待と言われかねない状況となっている。そこで、職員個々の虐待防止への意識を高めるため、「気づきシート」を活用し、虐待防止対策に取り組んだ。
【方法】
対象は令和4年5月時点で在職中である当施設全職員181名。内容は、他職員の言動や介助方法などの良い行動や悪い行動を「気づきシート」の用紙に記入し提出してもらった。
記入前にあらかじめ研修を実施し、「気づきシート」の目的と、記入例などを明示した。「気づきシート」の記入方法は、良い気づきか悪い気づきに丸をつけ、内容は自由記載とした。記名欄を設けてはいるが、匿名の提出でも可能。内容の確認は、事務長と師長のみと、記入前に職員にも周知した。「気づきシート」に記載された内容を抜粋し、良い気づき、悪い気づき共に全職員に周知した。「気づきシート」の効果を確認するために、実施後アンケートを行った。アンケートは、無記名にて実施し、「効果がある」「やや効果がある」「あまり効果がない」「効果がない」の4段階の聴取と、自由記載欄を設けた。虐待防止の効果、接遇改善の効果、気づきシートの波及効果、気づきシート継続についての質問を行った。
【結果】
「気づきシート」の内容は、良い気づきでは、食事介助時に笑顔で声掛けをしていた。新人さんが利用者さんから声をかけられた際は必ず立ち止まり話を聞いていた。新人さんのフレッシュな感覚に良い影響を受けたいと思う。という内容があった。悪い気づきでは、トランスファー時に利用者のペースに合わせず無理やり向きを変えているように見える。車椅子移動の介助方法が乱雑に見える。家族の視点からも良くない援助方法だと感じる。等具体的な内容が多かった。
実施後アンケートでは、虐待防止と接遇改善について、「効果ある」「やや効果ある」が約90%あった。普段の自分の行動を客観的に振り返り初心に戻れる。虐待に繋がる行為になっていないか慎重な行動になった。と前向きな意見が多かった。マイナスな意見としては、虐待がだめだと押さえつけられているだけで、虐待をしてしまう原因(=職員のストレス)を改善しなければ意味がない。気づきシートに書かれないように気を付けているだけで本当の意味の接遇としては薄い。と厳しい意見があった。継続については、継続した方が良いが52%、どちらとも言えないが43%であった。慣れると業務のように適当になってしまう。プレッシャーになる。偏見的な意見がでてこないか。監視し合うように感じる。とマイナスな意見が多かった。
【考察】
良い気づきを挙げてもらう効果として、マズローは、1.必要最低限の生理的欲求(食欲・睡眠)、2.安全欲求、3.仲間に受け入れてほしいという社会的欲求、4.価値ある人間だと認められたいという承認欲求、5.あるべき姿になりたいという自己実現欲求と、5段階で欲求を分けている。「気づきシート」を通して、他者からの評価や上司からのフィードバックにより、社会的・承認欲求が満たされ、他者の言動を知ることで、自分にとっての理想を見つける手助けができるのではないかと考える。そして、これらの欲求を少しでも満たすことで個々のモチベーションの維持・向上を図ることができるのではないかと思われる。
悪い気づきを挙げてもらうことで、1.周囲の目があり抑止力になる。不適切な対応がエスカレートしなくなる。と虐待を助長する組織風土の防止になる。2.自分の言動を客観的に振り返るきっかけとなる。良い対応を学べる。第三者が言語化することで他スタッフにも伝達することが出来た。と職員教育となる。3.当たり前と思っていた言動も他者から見れば虐待となりうるので共通の認識をもつきっかけとなる。慣れで知らず知らずのうちに気づけなくなっている事を他者から知る機会となる。と認識のズレの確認となる。結果的に、言いにくいことを伝えられ、早期に対応することで大きな問題になることを防ぐことができる。といった点が考えられる。
実施後アンケートの結果から、今後の課題として、「気づきシート」の実施回数が多いと内容が希薄になり、プレッシャーでストレスの原因にもなってしまう。行き過ぎた監視とならないように、集計方法や回数の検討が必要である。提出するだけとならないよう、問題提起があれば指導やトレーニングが必要であり、メンタルヘルス対策や具体的な指導は定期的に開催していく必要がある。業務内容の問題はどこの職場でもあり、問題が起こる前に、常日頃から業務改善を意識して取り組む必要がある。
【まとめ】
「気づきシート」の活用により、自分自身の行動に気づき行動を改めるきっかけとなるだけでなく、周囲からの評価やフィードバックで、欲求が満たされ、モチベーションの維持・向上に繋がると考えられる。小さな問題を早期に発見し対応できるので、虐待の芽を摘むことができる、各自が意識して勤務にあたることで、気の緩みを防ぐことができる。しかし、態度や気持ちを改めることは最終的には個人に任されてしまうため、「気づきシート」の活用により虐待防止の基本の「情報伝達」の土台を作ることが出来ればと思う。告げ口ではなく自分自身気付けてよかったと思える良い機会と思ってもらえるよう、職員間で思ったことを言い合え、改善できる職場環境になることを望み取り組んでいきたい。