講演情報

[14-O-O003-04]意識変化からつながる安全対策へのプロセスリスクマネジャーによる職員のためのリスク分析

*剣持 勇1、坂本 昌哉1、藤本 龍汰1 (1. 山梨県 介護老人保健施設 甲州ケア・ホーム)
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職員のリスク管理への意識が低い現状から意識を向上していくことを目標とし、オリジナルのリスク管理フィードバック表を作成しフロアに還元した。作成には、多職種から情報を収集し、リスクマネジャーによる情報分析を通して、フロア職員に周知した。その結果、フロア全体のリスク予防だけでなく、リスク管理への意識にも変化が生じた。その成果が得られたのは、取り組みの過程での2つの考察の視点があったからだと考えられた。
【はじめに】
当施設は今まで、リスク管理に関しては、委員会や部内の役職が主体となり行っていた。そのため、フロアの職員がリスク管理に関わる機会が、ヒヤリ・ハットの報告をあげたり、事故原因に対して、カンファレンスをするなどのその都度起きた現象に関して関わる程の機会しかなく、全体的に職員のリスクに関する意識が低いことが課題として挙げられていた。そこで今回、リスクマネジャーが中心となりオリジナルのフィードバック表を作成し、リスク管理への取り組みを行った。その取り組みの結果を以下に報告する。
【施設紹介】
当施設は山梨県の介護老人保健施設であり、超強化型老健施設として在宅復帰支援とともに看取りケアや認知症ケアにも力を入れている。また、リスクマネジャーが3名おり、各フロアに一人ずつ配属されていることも特徴である。
【リスク管理における現状の課題】
当施設は、事故を予防するためにヒヤリ・ハットレベル0報告書(以下ヒヤリレベル0)を導入し、ひやりとした・ハッとした事例などを手書きでまとめるようにしている。研修会でヒヤリレベル0の重要性の説明し、何度もフロア職員へ記入の呼び掛けを実施するなど、リスク管理に関しての意識を高めてもらうための取り組みを実施してきたが、その意図が全体的にうまく伝わらず、報告件数はあまり伸びなかった。ヒヤリレベル0の報告件数が少ないことで情報が集まらずた事故に繋がることを防ぐための分析も不十分になってしまったことで、同利用者のヒヤリレベル0も多発してしまった。また問題が解決されず、対応策の検討が担当職員任せになってしまうこともあった。それらの要因より、リスク管理に関しての職員全員の意識が低いということが課題になっていた。
【取り組みの目標】
職員一人ひとりが、リスク管理に対しての意識を向上することが出来ること
【取り組みの概要】
取り組みの流れとしてまずは、問題点を分かりやすくフロア職員に伝えるために、オリジナルのリスク管理フィードバック表を作成する。次に、フィードバック表を作成するにあたっては多くの情報が必要となるため、情報を多職種から収集して作成する。それらの収集した情報をまとめ、リスクマネジャーがリスク状況について分析を行う。最後に完成したフィードバック表を基に、フロア職員へフィードバック表の内容を周知して対策と実施をしていく。
【フィードバック表の紹介】
今回のオリジナルフィードバック表には大きく分けて3つの項目が存在する。1つ目は、ヒヤリレベル0の件数をまとめる。ヒヤリレベル0の件数を把握するとともに、ヒヤリレベル0が3件以上蓄積した利用者と、その発生内容をピックアップしリスト化することで、緊急性があることを共有出来るようにした。2つ目は、ラウンドチェックである。フロア内をラウンドして、危険な場所や問題点をまとめることで、利用者の生活環境の改善を図ることが出来るようにした。3つ目は、分析結果を記載したことである。収集したヒヤリレベル0やラウンドチェックなどのデータを基に、発生する時間帯や場所などを分析し、事故が発生する傾向を知ることが出来るようにした。これら3つの項目を、リスクマネジャーがデータを基にそれぞれ分析し、1枚の表にまとめたものが、オリジナルフィードバック表である。
【取り組みの結果】
フィードバック表を活用する事により、ヒヤリレベル0が蓄積された利用者に対して、担当職員のみではなく職員全員で対応策を検討することが出来るようになった。また、他の職員にもラウンドチェックに関わってもらうことで、利用者の生活環境改善に向けての検討も行われるようになった。
さらに、リスクが高い利用者に対しての意識が高まり、ミニカンファレンス等で対応方法の検討を、必要時に迅速に行われるようになった。さらに、フロアのあちこちで職員同士のリスク管理に対しての声かけやコミュニケーション量が増えた。以上の結果より、職員のリスク管理への意識が向上したといえる。
【考察】
今回の取り組みでは、2つの考察の視点があると考える。
1つ目は、リスクマネジャーがフィードバック表を作成する過程において、職員に対して数多くのリスクに関しての問いかけを行ったため、職員一人ひとりがリスクについて考える機会が増えたといえる。また、フィードバック表を周知する段階では、様々な専門職の視点が加わることにより、リスク管理の重要性について共通の認識がもてるようになったと考える。要するに、フィードバック表を作成する過程や周知の段階では多職種と一緒に行うことが重要であるといえる。
2つ目は、フィードバック表に記載するデータは、リスクマネジャーが分析した結果を掲載している。この分析したデータは、リスク管理における説得力を高めることに繋がると考える。また、具体的に注意する点を示すことにも繋がり、対応策を実施しやすくなるともいえる。そのためデータは必ず分析することにより、職員一人ひとりのリスク管理への意識向上に繋がると考える。
【おわりに】
今回、リスクマネジャーの視点にてフロアに還元するためにフィードバック表を導入することで、事故を未然に防ぐことが出き、フロア全体のリスク管理への意識がより向上した。新年度になると、新たに新入職員が入社してくる。そのなかで、リスクへの意識は徐々に薄まってしまう現状にある。そのため現在は、速やかに対応策の立案が出来るよう、ヒヤリレベル0報告書をデータ化し、自動的に3件蓄積した利用者がリストアップされるような取り組みを行い、フロア職員全体のケアの統一を図るとともに、リスクへの意識を維持していこうと考えている。リスクマネジャーとして今後も、安全面のみならず利用者が快適に在宅支援を受けられ、同時に職員が働きやすい環境づくりも行っていきたい。