講演情報
[14-O-T001-02]睡眠センサーを用いたBPSD軽減への取り組み
*西井 大貴1、野田 貴之1、弘中 優喜1、津田 麻子1、坂本 将徳2、津田 隆史1 (1. 岡山県 老人保健施設古都の森、2. 広島都市学園大学)
日本の高齢化に伴う介護人材不足を解決するため、介護ロボット技術の活用が期待されているが、多くの施設では導入が進んでいない。今回の睡眠センサーを用いた取り組みでは認知症高齢者8名を対象に、夜間睡眠状況をリアルタイムに把握しケアを行った結果、BPSDと介護負担度が有意に減少した。これにより、睡眠状態の可視化が可能な介護ロボットの導入が、認知症高齢者のBPSD軽減と介護の質向上に有効であることが示唆された。
【背景】日本の高齢化は世界に例を見ない速度で進行しており、介護人材不足が大きな課題となっている。介護分野の人材を確保する一方で、限られたマンパワーを有効に活用する解決策の一つとして、質の高い介護を実現する為のロボット技術を用いたAI・ICT等の活用が期待されている(厚生労働省)。しかし、公益財団法人介護労働安定センターが発表している令和4年度「事業所における介護労働実態調査結果報告書」によると、介護ロボットを導入していないと答えたのが80.6%で、8割以上の施設で導入が進んでいない現状を報告している。介護福祉機器の導入や利用についての課題としては、導入コストが高い(50.6%)、投資に見合うだけの効果がない(26%)、その他にも設置や保管場所および管理の問題が挙げられる。また、北嶋によると介護ロボットの導入率と有効活用率は平均8.1%と低いものの、介護ロボットの導入検討率は平均55.67%と約半数が導入を検討している。当施設では2021年4月より見守り支援システム「眠りSCAN」(パラマウントベッド社製)という介護ロボットを導入している。「眠りSCAN」とはシート状のセンサーをマットレスの下に敷き込むだけで、ベッドを使用されている方の呼吸数や心拍数、睡眠状態、覚醒、起き上がり、離床動作などを遠隔においてリアルタイムに把握する事が出来る機器である。当初は業務効率の改善を目的に導入した介護ロボットであるが、睡眠状態、覚醒状態に合わせてトイレ誘導や介護をしていくうちに夜間の中途覚醒回数の減少と睡眠時間の増加が見られ、BPSDが出現している利用者様も徐々に症状が改善していくという事象を経験した。睡眠センサーを使用した先行研究では、認知機能障害のある高齢者における夜間睡眠の実態とADL及びBPSDとの関連性の報告や、1事例を対象に睡眠センサーを使用してBPSDの軽減に繋がったという報告みられるものの、睡眠センサーを使用して複数事例を対象としたBPSDの軽減効果を報告する研究は皆無である。そこで今回、認知症を有する複数事例を対象に「眠りSCAN」を用いて、夜間睡眠時の覚醒状況に配慮したケアを実践する事で、BPSDの軽減を目的とする取組を実施した。介護ロボットによる業務改善や効率化の側面が注目される中で、本取り組みのようにケアに対する質の向上に着目した側面の効果についても検証できれば、介護ロボット導入促進の一助となるのではないかと考える。【対象と方法】本取り組みの対象者は、当施設に入所中の日中・夜間共にBPSDが出現しており、睡眠障害がみられる認知症高齢者男女8名(85±5.1歳)とした。方法は対象者のベッドに「眠りSCAN」を設置し、呼吸数、脈拍、覚醒状態の計測を行った。計測結果から覚醒、中途覚醒、深睡眠を判断し、睡眠を妨げる事の無いように深睡眠時は介入を避け、中途覚醒時に排泄ケアを実施した。【主要評価項目と数値の解析】本取り組みでは、対象者におけるBPSDと介護負担度の評価としてNeuropsychiatric Inventory(以下:NPI)を使用した。評価頻度については「介入開始前」、「介入開始後1ヶ月」の2時点において評価を実施した。得られた数値の解析としては統計解析ソフトSPSSver21を用いてt検定を実施した。有意水準はp>0.05とした。尚、睡眠時間についてはグラフのみで表記されており、詳細な睡眠時間を評価する事は出来なかった。【結果】NPIにおける合計得点(p=0.01%)と介護負担度(p=0.02%)において有意な減少傾向が確認できた。また、グラフ上では睡眠時間の増加、及び中途覚醒回数の減少傾向が見られた。【考察】今回、睡眠障害がみられる認知症高齢者男女8名に対して、「眠りSCAN」を使用した個々の睡眠状態を可視化することで睡眠を妨げる事の無いように排泄ケアを実施した結果、BPSDと介護負担度において有意な減少傾向が認められた。これらの結果から睡眠障害がみられる認知症高齢者におけるBPSDと介護負担度の軽減に対して、「眠りSCAN」のように睡眠状態の可視化が可能な評価ツールとして介護ロボットを導入する事で睡眠状態に合わせたケアを行うことが有効であると示唆している。前野らはBPSDがある人ほど、総睡眠時間が少なく、睡眠効率が悪く、入眠潜時が長く、中途覚醒時間が長かったと報告している。また、鈴木らによると認知症高齢者は約40%に夜間の睡眠困難が認められており、中途覚醒が増加し、再入眠までの時間が長くなる。認知症高齢者が夜間に中途覚醒をすると、見当識障害のため混乱が起こり、状況を認識できない為、不安や緊張が高まり、興奮、徘徊、昼夜逆転へと繋がるとしている。「眠りSCAN」を導入する以前は睡眠周期を完全に把握する事は困難であり、日によってはBPSDを悪化させるタイミングで夜間の排泄ケアを実施していたと推測される。木暮らは睡眠センサーを用いて、認知症高齢者の睡眠状況を長期的かつ客観的に測定できれば、介護現場において、介入方法の検討や介入効果の確認などに役立てる事が出来ると述べている。今回の睡眠障害がみられる認知症高齢者男女8名においても、「眠りSCAN」を使用し睡眠状態を客観的に測定し、グラフで可視化させることで各々のスタッフによる感覚での睡眠把握ではなく、共通した睡眠状態の共有が可能になった。共通した睡眠状態の情報をもとにしたケアを実施することで、質も再現性も高いケアが実施できたと推測される。そのため夜間の睡眠時間の増加と中途覚醒の減少がみられ、BPSDと介護負担度において有意な軽減に繋がったと考える。今後も追跡調査を行い、業務効率の面だけでなく、利用者様へのケアに対する質の向上に努めていきたい。