講演情報

[14-O-T001-06]ICT機器導入がもたらした効果~安心安全な環境造り~

*眞田 雄斗1、後藤 あゆみ1 (1. 三重県 医療法人富田浜病院 富田浜老人保健施設)
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働き手の人材不足に伴い、提供される医療・介護の質が落ちてしまう事が考えられたため、利用者・職員共に安心して生活・働ける環境を目指し、取り組んだ内容を報告する。働きやすい職場環境を目指し、日常の業務の補助となるICT機器の導入を検討し、インカム、見守りカメラ、生体センサー(aams)を導入した。その結果、生産性が向上し、業務効率化が図れたことで職員同士の連携が増え、負担軽減にも繋がった。
【はじめに】
 医療・介護現場は慢性的な人手不足が課題であり、対策として各施設策を講じているが人手不足解消までには至っていない。厚生労働省は介護人材不足に対する介護人材確保対策として、生産性向上を図るための介護ロボット・ICT機器の活用推進を推奨している。当施設でも2022年度より段階的にICT機器として、1)生体センサー・離床センサー(aams)2)見守りカメラ3)インカムを導入した。業務効率性を改善し職員一人一人の生産性を上げ、利用者に安心して生活して頂けることを目的に取り組んだ内容を報告する。

【実施された取り組み】
(1)心拍、呼吸、体動、離着床、睡眠の状態などを離れた場所から把握することができる、マット型の見守り支援介護ロボット 生体センサー(aams)・離床センサー80床導入
(2) ネットワークカメラと連携して居室の様子を確認し、アラートがあった際のみ映像を表示できる、利用者のプライバシーに配慮した運用が実現できる見守りカメラ 80床導入
(3) 1対複数、多職種(リハビリ、相談員、老健事務)との会話をするためのインカム 25台導入

【実証された効果】
(1)生体センサーが導入されたことで、利用者の細かな情報がアセスメントできるようになり、瞬時に対応できるようになった。看取りの方など心拍・呼吸状態が悪化した際、aams端末にアラートにて警告されるため、その場で適切な対応を行うことが可能となり利便性が増した。また、利用者が覚醒しているのか寝ているのか端末モニターで確認できるため、排泄介助の場面等で無駄に起こすことがなく、安眠にも繋がった。さらに、利用者の睡眠状況が記録されるため、眠りが浅い時間帯、深い時間帯を確認し、利用者の睡眠状態合わせた適切な時間帯でのオムツ交換も行えるようになった。
(2)離床センサーと連動した見守りカメラの導入により無駄な訪室が減った。以前はベッドセンサーが作動した際、利用者の状況も確認するため訪室していた。見守りカメラの導入により、離床センサーが作動した際は、スマートフォンやパソコンの端末にて居室状況を確認し、訪室の必要性の有無を判断できるようになったため、職員の負担軽減に繋がった。居室内での転倒や転落などのヒヤリハットが生じた際は、見守りカメラに記録されたデータをもとに多職種と検証し、現状の問題点を把握し、今後の対策を練り再発防止に努めることが可能となった。見守りカメラ導入後は居室内での転倒転落の割合が減っており、利用者の安全にも繋がった。
(3) 人手不足の状態になると、業務の忙しさから職員間の声掛けを怠り、業務を優先し、情報共有が後回しになってしまっていた。インカムの導入により、1対複数で会話ができるため、情報伝達・共有が楽になり、連携も取りやすくなった。人探しや入浴の誘導、夜勤時にトラブルがあった場合でも、その場を離れることなく、ヘルプを呼ぶことで、無駄な動きをなくし効率よく行動することが可能となった。

【考察】
 各種ICT機器導入後、職員に対しアンケートを実施し、「ICT機器を導入し生産性が向上した」と回答された割合が100%の結果となった。また、同時に利用者に対し、ICT機器導入前後に施設での生活に関するアンケートを実施し、各項目で一定数以上の向上があった。つまり、ICT機器導入により生産性が向上し、業務効率化が図れたことで利用者と関わる時間が増えたことが考えられる。その結果、質の良い医療・介護の提供に繋がり利用満足度(CS)も向上したと考える。また、職員アンケートの結果から導入してよかったICT機器としてインカムの名前が多く上がっている。つまり、多忙な業務の中、リハビリ、事務、看護師、相談員すべての老健に携わる職種がインカムを持ったことで、他職種の動きの把握が行え、相互理解が進み連携に繋がったと感じる。結果から、円滑なコミュニケーションを取ることが生産性を向上させる上で大切であるということが理解できる。

【まとめ】
 ICT機器導入により利用者・職員共に過ごしやすい、働きやすい環境が少しでも整備出来たのではないかと感じる。しかし、機器を運用する上で今後の課題も浮き彫りとなった。生体センサー(aams)において、心拍・呼吸など各個人で設定値を細かく設定できておらず、急変で無いにも関わらずアラートの警告音が鳴ることや、生体センサー(aams)がうまく正常な値を感知できずアラートが鳴るなど、無駄に端末を確認する作業が増え、職員のストレスになってしまっている。そのため、生体センサー(aams)に蓄積されたデータを基に情報を分析し、他職種で連携し利用者毎に適正値を見定め、アラートが鳴る値を設定し、無駄に端末を確認しなくて済むように取り組む必要がある。ICT機器は導入して終わりでは無く、各業者と連携し、それぞれのICT機器を有効活用できるように働きかけ、職員教育を実施していく必要がある。
 今後さらに医療・介護の現場においてICT化が進む中、取り残されないように最先端の情報や設備を取り入れ、施設が利用者にとって安心して生活できる場所となり、職員にとって働きがいのある職場となることを目指して取り組みを続けていきたい。