講演情報
[14-O-T002-01]見守り装置による支援負担軽減と守るべき利用者の尊厳
*安達 宏幸1 (1. 茨城県 介護老人保健施設やすらぎ)
介護施設において見守り装置は施設利用者に起こりうるベッドや車椅子からの転落、転倒による受傷を防ぐなどの目的で使われている。また、事故発生時の映像記録から有効な防止策を得ることも期待できる。しかし、見守りに使用するカメラなどの映像記録装置は監視カメラによる身体拘束とも言える。この様な批判に応えて、身体の骨格表示や深度センサーなどの併用により利用者のプライバシーを配慮したシステムの開発を続けている。
【目的】高齢者に生活支援・介護サービスを提供する様々な施設には、利用者に対してその安全性に充分配慮することが求められている。すなわち、これらサービスの提供過程において利用者の事故・受傷を可能な限り低減させる不断の努力が必須である。しかし、転倒・転落事故を未然に防ぐために、職員が付きっきりで一人の利用者を見守ることは不可能である。
一方、ICT技術を取り入れた見守り装置を利用することで、介護事故予防あるいは生起した事故の解析により予防策を見出せる可能性がある。このようなICT技術を用いることにより、利用者の受傷による職員の業務や心理的負担を軽減出来る。本稿は施設内において、見守り装置を設置したことによる職員の負担軽減と利用者の尊厳を守るという、相反する問題についてどう解消しようと試みた。
【方法】参加する利用者家族様には、見守り装置の使用目的に関する説明をして書面による同意を得てから居室に設置した。
次に、開発経過に沿って見守り装置の仕様を説明する。
1.令和3年10月:ELPドームカメラを搭載した見守り装置
カメラにPC(Raspberry pi 4)を組み合わせたユニットに骨格認証ソフトウェアを組み合わせたシステム(Ecare+Pro)を開発した。このシステムでは、ベッド上の利用者様を骨格表示した映像と各居室の状況から危険を判断する。検知をしたらモニター上に、事故の可能性ありは黄色、事故の切迫は赤色で表示される。
2.令和3年11月:記録のストレージ
離床時は除いて、カメラを用いて取得した骨格画像は、古いデータから順に消去され上書き保存する仕組みへと変更した。骨格画像はクラウドサーバーにも保存しているため、後からアクセスすることで確認できる。
3.令和5年10月:実画像表示の見守り装置へ
実画像を提示して見守りが行える装置へ変更した。画面を見ただけで見守りが完結する方が職員にとっても使い勝手が良く浸透しやすかった。
4.令和6年2月:見守り画像のマニュアル切り替えスイッチ
利用者を常時映し出すのではなく、必要な時に見守り画像を表示/非表示と切り替えることが出来るよう設置した。これにより、安否確認する時だけ映像を見ることができるようになった。
【結果】令和3年10月から3年間、ELPドームカメラ型搭載見守り装置をベッドサイドに設置したが、令和5年9月まで職員の利用が無かった。当時は判定した結果から、注意レベルを黄色, 事故切迫レベルを赤色でモニターに表示する仕組みだった。しかし、実画像を表示しないシステムであったことから、職員には全く利用されなかった。画像を提示する仕様を追加すると、夜勤帯の見守りに一利用者当たり月80回程度の利用があり、介護カルテに「見守り装置による安否確認」と記載されるようになった。どちらの安否確認でも変わらないと、理解してもらえたようである。見守り装置による安否確認は、令和6年4月をピークに月70回へ減少したことから、利用者への尊厳を考え必要な時だけ画像を見るようになったと思われる。
エラーにより持続が停止した際、復旧方法の小冊子を配布しているが、復旧操作ができない職員もいる。そのため一旦装置が止まると、訪室による安否確認に切り換わる。ICT機器に不慣れな職員には今後、使用方法について研修を繰り返し行うことによってこういった事態は少なくなると期待される。
次に、見守り装置を3年間運用している間のトラブルについて具体的に報告する。
・家族から書面で了承を得ていても、利用者本人から「個人情報だぞ、カメラを取り外せ」などの権利主張をする言動があった。
認知機能の低下により説明が理解できなかった。カメラをぬいぐるみに包み込むなどの方法も考えたが、解決に至らなかった。
・カメラ側に設置したPCから無線電波が停止することにより装置自体の機能が止まる。
これは、ブラウザーを再起動することで解決できた。その他に、カメラの電源を落として再度入れ直すことでも解決できるが、これを職員が習得するまで何度か実地指導が必要である。
【考察】利用者が部屋の中で怪我をする、ベッドや車椅子からずり落ちて床に座り込んだまま放置される、施設を抜け出して外へ出るなどの事故を防ぐ目的で見守りカメラを導入した。これにより職員の業務と心理的負担を軽減することができたが、利用者のプライバシーに対する配慮が損なわれることになる。理由もなく施設の都合や職員の負担軽減のために職員用ステーションのモニターに常時画像を映し出すと監視カメラと変わらなくなる。そうした行為は「デジタル技術を用いた身体拘束」と批判されかねない。
法律家の中には「利用者のプライバシーを守るために室内から見守りカメラを無くし、最低限の回避措置を行えば転倒事故が起きても回避義務違反にはならない」との見解を示している。しかし利用者家族からすれば、もっと積極的に事故を防いでもらいたいと思うかもしれない。これらの批判に応えながら家族の要望を満たすため、部屋の様子を非表示にできる切り替えスイッチを設置した。この仕様により、必要な時にだけ映し出し、利用者の確認を取るようにすればプライバシーを守りつつ、見守りすることも可能であろう。
【結論】開発当初は、見守られる利用者の状態を2段階の色分けで危険度をモニターに表示していた。この仕様では、職員がモニター表示を見過ごしやすかった。なぜなら、見守り装置の不具合によって誤表示されている可能性を否定できないからである。画像切り替えスイッチにより一時的に画像を表示できるようにすると、ディスプレイ上で安全確認ができるため、職員の見守り装置の利用頻度が増えた。今では、夜間の訪室による安否確認に取って替わりつつある。
今後は、レーダー型検知装置や室内温度センサーが異常を検知したときに画像を自動表示する新たな報知機能を追加するなど、今後も改良を続けていく。
一方、ICT技術を取り入れた見守り装置を利用することで、介護事故予防あるいは生起した事故の解析により予防策を見出せる可能性がある。このようなICT技術を用いることにより、利用者の受傷による職員の業務や心理的負担を軽減出来る。本稿は施設内において、見守り装置を設置したことによる職員の負担軽減と利用者の尊厳を守るという、相反する問題についてどう解消しようと試みた。
【方法】参加する利用者家族様には、見守り装置の使用目的に関する説明をして書面による同意を得てから居室に設置した。
次に、開発経過に沿って見守り装置の仕様を説明する。
1.令和3年10月:ELPドームカメラを搭載した見守り装置
カメラにPC(Raspberry pi 4)を組み合わせたユニットに骨格認証ソフトウェアを組み合わせたシステム(Ecare+Pro)を開発した。このシステムでは、ベッド上の利用者様を骨格表示した映像と各居室の状況から危険を判断する。検知をしたらモニター上に、事故の可能性ありは黄色、事故の切迫は赤色で表示される。
2.令和3年11月:記録のストレージ
離床時は除いて、カメラを用いて取得した骨格画像は、古いデータから順に消去され上書き保存する仕組みへと変更した。骨格画像はクラウドサーバーにも保存しているため、後からアクセスすることで確認できる。
3.令和5年10月:実画像表示の見守り装置へ
実画像を提示して見守りが行える装置へ変更した。画面を見ただけで見守りが完結する方が職員にとっても使い勝手が良く浸透しやすかった。
4.令和6年2月:見守り画像のマニュアル切り替えスイッチ
利用者を常時映し出すのではなく、必要な時に見守り画像を表示/非表示と切り替えることが出来るよう設置した。これにより、安否確認する時だけ映像を見ることができるようになった。
【結果】令和3年10月から3年間、ELPドームカメラ型搭載見守り装置をベッドサイドに設置したが、令和5年9月まで職員の利用が無かった。当時は判定した結果から、注意レベルを黄色, 事故切迫レベルを赤色でモニターに表示する仕組みだった。しかし、実画像を表示しないシステムであったことから、職員には全く利用されなかった。画像を提示する仕様を追加すると、夜勤帯の見守りに一利用者当たり月80回程度の利用があり、介護カルテに「見守り装置による安否確認」と記載されるようになった。どちらの安否確認でも変わらないと、理解してもらえたようである。見守り装置による安否確認は、令和6年4月をピークに月70回へ減少したことから、利用者への尊厳を考え必要な時だけ画像を見るようになったと思われる。
エラーにより持続が停止した際、復旧方法の小冊子を配布しているが、復旧操作ができない職員もいる。そのため一旦装置が止まると、訪室による安否確認に切り換わる。ICT機器に不慣れな職員には今後、使用方法について研修を繰り返し行うことによってこういった事態は少なくなると期待される。
次に、見守り装置を3年間運用している間のトラブルについて具体的に報告する。
・家族から書面で了承を得ていても、利用者本人から「個人情報だぞ、カメラを取り外せ」などの権利主張をする言動があった。
認知機能の低下により説明が理解できなかった。カメラをぬいぐるみに包み込むなどの方法も考えたが、解決に至らなかった。
・カメラ側に設置したPCから無線電波が停止することにより装置自体の機能が止まる。
これは、ブラウザーを再起動することで解決できた。その他に、カメラの電源を落として再度入れ直すことでも解決できるが、これを職員が習得するまで何度か実地指導が必要である。
【考察】利用者が部屋の中で怪我をする、ベッドや車椅子からずり落ちて床に座り込んだまま放置される、施設を抜け出して外へ出るなどの事故を防ぐ目的で見守りカメラを導入した。これにより職員の業務と心理的負担を軽減することができたが、利用者のプライバシーに対する配慮が損なわれることになる。理由もなく施設の都合や職員の負担軽減のために職員用ステーションのモニターに常時画像を映し出すと監視カメラと変わらなくなる。そうした行為は「デジタル技術を用いた身体拘束」と批判されかねない。
法律家の中には「利用者のプライバシーを守るために室内から見守りカメラを無くし、最低限の回避措置を行えば転倒事故が起きても回避義務違反にはならない」との見解を示している。しかし利用者家族からすれば、もっと積極的に事故を防いでもらいたいと思うかもしれない。これらの批判に応えながら家族の要望を満たすため、部屋の様子を非表示にできる切り替えスイッチを設置した。この仕様により、必要な時にだけ映し出し、利用者の確認を取るようにすればプライバシーを守りつつ、見守りすることも可能であろう。
【結論】開発当初は、見守られる利用者の状態を2段階の色分けで危険度をモニターに表示していた。この仕様では、職員がモニター表示を見過ごしやすかった。なぜなら、見守り装置の不具合によって誤表示されている可能性を否定できないからである。画像切り替えスイッチにより一時的に画像を表示できるようにすると、ディスプレイ上で安全確認ができるため、職員の見守り装置の利用頻度が増えた。今では、夜間の訪室による安否確認に取って替わりつつある。
今後は、レーダー型検知装置や室内温度センサーが異常を検知したときに画像を自動表示する新たな報知機能を追加するなど、今後も改良を続けていく。