講演情報
[14-O-T002-05]LIFEを用いた機械学習による排尿改善因子の検討
*松田 和也1、谷口 理恵1、小野 幸代1、井本 裕之1、佐藤 昇2、岸川 正純1 (1. 大分県 介護老人保健施設 大分豊寿苑、2. 社会医療法人敬和会 デジタル推進局)
2021年の介護報酬改定で導入されたLIFEデータを用いて、排尿改善の予測モデルを作成した。2022年4月から2023年9月までの老健入所者を対象に、ロジスティック回帰分析を実施し、排尿自立度の向上因子を特定した。対象者169名中、38名(22.5%)の排尿状態が改善しており、関連する因子として「排尿状態の3か月後の見込み」など8つの要素が挙げられた。今回の結果から、排尿改善のための多職種アプローチの重要性などが示唆された。
【はじめに】
2021年の介護報酬改定より科学的介護情報システム(LIFE)が始まったものの、現場でのケアの質を向上させるための十分な知見は明らかになっていない。本研究では自施設のデータを用いて機械学習における予測モデルを作成するとともに、モデルに影響を与える因子を特定し、ケアの質的向上を目指すことにある。今回はLIFEのなかでも排尿の改善に焦点を当てた。先行研究では排尿ケアは利用者のQOLはもちろん、在宅復帰後にサポートする家族のストレスなどにも関わることが指摘されている。また、改善の可能性を見出し、適切なアプローチにつなげていくことは科学的介護を推進するうえで重要である。今回、LIFEに提出しているデータを活用してケアの質を向上させる可能性について検討したため、以下に報告する。
【対象と方法】
対象は2022年4月から2023年9月までに当老健に入所した265名のうち、対象期間中に利用を開始した169名とした。対象者の平均年齢は85.6±7.2歳、平均BMIは21.0±4.1、平均Barthel indexは43.6±25.7、性別は男性55名(32.5%)女性114名(67.5%)であった。排尿の改善の有無については、LIFEの排せつ支援情報の項目を使用した。対象者の入所時の排尿評価(urination admission status)と最終評価時の排尿評価(urination evaluation status)の項目の差分を算出し、点数が向上しているものを改善有りとした。方法はLIFEに提出しているデータのうち、排せつ支援情報や自立支援促進情報などから利用者情報、排せつ、ADL、口腔、栄養などに関する項目を抽出した。また、年齢や認知症に関する評価の有無などを特徴量エンジニアリングにて作成し、全81項目となった。データは入所時のもののみを使用し、Train dataとTest dataを7:3で分割した。排せつの自立度が向上した群(Positive)としなかった群(Negative)を予測するモデルとしてロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰分析の手順は、多重共線性の処理、特徴量選択、学習の順で行った。多重共線性の処理は分散拡大係数(VIF)を算出し、VIF<10の特徴量のみとした。特徴量選択はRecursive Feature Elimination Cross Validation(RFECV)を使用し、モデルに貢献する特徴量を選択した。学習したモデルは2値分類の評価指標を用いて精度を確認し、オッズ比を算出して結果について考察した(p<0.05)。解析はPython3.9.19、statsmodels0.14.2、scikit-learn1.3.0を使用した。
【結果】
対象者169名のうち、排尿の自立度が向上したのは38名(22.5%)であった。特徴量は82項目のうちVIF<10であったのは62項目、その後のRFECVによる特徴量選択の結果15の特徴量が選択された。その内統計的有意差のあるのは8つであった。オッズ比1以上の特徴量は1.排尿の状態:3か月後の見込み[支援を行った場合](urination three support status)OR 3.16[95%信頼区間(CI) 1.06-9.46]、2.排便の状態:評価時(defecation evaluation status)OR 29.84[95%CI 4.62-192.74]、3.椅子とベッド間の移乗(transfer bed chair status)OR4.40 [95%CI 1.25-15.47]であった。オッズ比1未満の特徴量は4.排尿の状態:入所時(urination admission status)OR 0.01[95%CI 0.00-0.07]、5.障害高齢者の日常生活自立度(impairment elderly independence degree)OR 0.36[95%CI 0.18-0.75]、6.階段昇降(up stairs status)OR 0.34[95%CI 0.17-0.65]、7.発症日(onset date)OR 0.45[95%CI 0.27-0.76]、8.認知症に関する評価の有無(特徴量エンジニアリング)OR 0.48[95%CI 0.25-0.93]であった。ロジスティック回帰分析の精度はAccuracy0.86、Precision:0.64、Recall:0.82、G-Mean0.85であった。
【考察】
VIFとRFECVにて特徴量を選択してロジスティック回帰分析を行った結果、高い予測精度のモデルが作成できた。オッズ比では統計的有意差のある特徴量として8つ挙げられた。これらは排せつ支援計画に含まれるもの(1、2、4)に加え、リハビリテーション実施計画書に含まれるもの(3、5、6、7、8)であった。また、RFECV後の15の特徴量では、摂食嚥下情報に関わるものも含まれていた。精度の高い予測を行うためには各計画書を横断的に収集・分析することの必要性が示された。
いずれの特徴量も信頼区間の幅が広く精度は高くないため結果の解釈に注意が必要であるものの、機械学習における予測精度を考慮して重要な因子とみなして主な特徴量について考察する。1.の見込みに関しては、多職種が排せつに関する会議を行った際に検討した結果を示すものであり、専門職による総合的な知見から排せつに関する予測が有効であると考えられる。ケアの場面においては状況の把握のみでなく、多面的な視点から予後予測を行うことの重要性を示しているものと考える。見込みについてはスタッフの経験や多職種による複合的な意見が含まれているため、今後も詳細な検討が必要である。また、95%CIは広いものの、2.の排便の状態からは排尿、排便を含めた排せつ行為として一体的に見ていくことの重要性が示された。
今回の結果は単一施設のみの検証であるが、見込みの重要性や排泄機能全般を見る視点など、考察に富む内容であったと考える。また、機械学習の活用は介護領域における臨床推論の補助になり得る結果であったとも考える。なお、今回使用した一部の特徴量は報酬改定時の見直しにより、2024年4月以降のLIFE項目に含まれないものもある。この変更は主に現場における入力負担に考慮したものであるが、科学的介護の実現に向けては多職種でのディスカッションの際に個々の能力評価と共に予後予測を行う必要性が高いのではないかと考える。
2021年の介護報酬改定より科学的介護情報システム(LIFE)が始まったものの、現場でのケアの質を向上させるための十分な知見は明らかになっていない。本研究では自施設のデータを用いて機械学習における予測モデルを作成するとともに、モデルに影響を与える因子を特定し、ケアの質的向上を目指すことにある。今回はLIFEのなかでも排尿の改善に焦点を当てた。先行研究では排尿ケアは利用者のQOLはもちろん、在宅復帰後にサポートする家族のストレスなどにも関わることが指摘されている。また、改善の可能性を見出し、適切なアプローチにつなげていくことは科学的介護を推進するうえで重要である。今回、LIFEに提出しているデータを活用してケアの質を向上させる可能性について検討したため、以下に報告する。
【対象と方法】
対象は2022年4月から2023年9月までに当老健に入所した265名のうち、対象期間中に利用を開始した169名とした。対象者の平均年齢は85.6±7.2歳、平均BMIは21.0±4.1、平均Barthel indexは43.6±25.7、性別は男性55名(32.5%)女性114名(67.5%)であった。排尿の改善の有無については、LIFEの排せつ支援情報の項目を使用した。対象者の入所時の排尿評価(urination admission status)と最終評価時の排尿評価(urination evaluation status)の項目の差分を算出し、点数が向上しているものを改善有りとした。方法はLIFEに提出しているデータのうち、排せつ支援情報や自立支援促進情報などから利用者情報、排せつ、ADL、口腔、栄養などに関する項目を抽出した。また、年齢や認知症に関する評価の有無などを特徴量エンジニアリングにて作成し、全81項目となった。データは入所時のもののみを使用し、Train dataとTest dataを7:3で分割した。排せつの自立度が向上した群(Positive)としなかった群(Negative)を予測するモデルとしてロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰分析の手順は、多重共線性の処理、特徴量選択、学習の順で行った。多重共線性の処理は分散拡大係数(VIF)を算出し、VIF<10の特徴量のみとした。特徴量選択はRecursive Feature Elimination Cross Validation(RFECV)を使用し、モデルに貢献する特徴量を選択した。学習したモデルは2値分類の評価指標を用いて精度を確認し、オッズ比を算出して結果について考察した(p<0.05)。解析はPython3.9.19、statsmodels0.14.2、scikit-learn1.3.0を使用した。
【結果】
対象者169名のうち、排尿の自立度が向上したのは38名(22.5%)であった。特徴量は82項目のうちVIF<10であったのは62項目、その後のRFECVによる特徴量選択の結果15の特徴量が選択された。その内統計的有意差のあるのは8つであった。オッズ比1以上の特徴量は1.排尿の状態:3か月後の見込み[支援を行った場合](urination three support status)OR 3.16[95%信頼区間(CI) 1.06-9.46]、2.排便の状態:評価時(defecation evaluation status)OR 29.84[95%CI 4.62-192.74]、3.椅子とベッド間の移乗(transfer bed chair status)OR4.40 [95%CI 1.25-15.47]であった。オッズ比1未満の特徴量は4.排尿の状態:入所時(urination admission status)OR 0.01[95%CI 0.00-0.07]、5.障害高齢者の日常生活自立度(impairment elderly independence degree)OR 0.36[95%CI 0.18-0.75]、6.階段昇降(up stairs status)OR 0.34[95%CI 0.17-0.65]、7.発症日(onset date)OR 0.45[95%CI 0.27-0.76]、8.認知症に関する評価の有無(特徴量エンジニアリング)OR 0.48[95%CI 0.25-0.93]であった。ロジスティック回帰分析の精度はAccuracy0.86、Precision:0.64、Recall:0.82、G-Mean0.85であった。
【考察】
VIFとRFECVにて特徴量を選択してロジスティック回帰分析を行った結果、高い予測精度のモデルが作成できた。オッズ比では統計的有意差のある特徴量として8つ挙げられた。これらは排せつ支援計画に含まれるもの(1、2、4)に加え、リハビリテーション実施計画書に含まれるもの(3、5、6、7、8)であった。また、RFECV後の15の特徴量では、摂食嚥下情報に関わるものも含まれていた。精度の高い予測を行うためには各計画書を横断的に収集・分析することの必要性が示された。
いずれの特徴量も信頼区間の幅が広く精度は高くないため結果の解釈に注意が必要であるものの、機械学習における予測精度を考慮して重要な因子とみなして主な特徴量について考察する。1.の見込みに関しては、多職種が排せつに関する会議を行った際に検討した結果を示すものであり、専門職による総合的な知見から排せつに関する予測が有効であると考えられる。ケアの場面においては状況の把握のみでなく、多面的な視点から予後予測を行うことの重要性を示しているものと考える。見込みについてはスタッフの経験や多職種による複合的な意見が含まれているため、今後も詳細な検討が必要である。また、95%CIは広いものの、2.の排便の状態からは排尿、排便を含めた排せつ行為として一体的に見ていくことの重要性が示された。
今回の結果は単一施設のみの検証であるが、見込みの重要性や排泄機能全般を見る視点など、考察に富む内容であったと考える。また、機械学習の活用は介護領域における臨床推論の補助になり得る結果であったとも考える。なお、今回使用した一部の特徴量は報酬改定時の見直しにより、2024年4月以降のLIFE項目に含まれないものもある。この変更は主に現場における入力負担に考慮したものであるが、科学的介護の実現に向けては多職種でのディスカッションの際に個々の能力評価と共に予後予測を行う必要性が高いのではないかと考える。