講演情報
[14-O-T002-07]デジタル機器や介護ロボットを導入した効果と課題個別化したアウトカムから機器の定着へ
*大石 由香1、木全 宣彦1、田下 真理子1、糸長 佳子1、小野 隆司1、池田 文惠2 (1. 大分県 杵築市介護老人保健施設グリーンケアやまが、2. 杵築市立山香病院)
デジタル機器や介護ロボットを導入した効果と課題を調査した。導入前後の腰痛調査、歩数調査、ワークエンゲージメント調査等の結果、定着には時間を要することが分かった。さらに、利用者やスタッフ共に期待を抱きつつ、前に進む様子が分かった。本研究より、施設管理を担う者は、個別化したアウトカムの構築と経時的な調査で、利用者・スタッフをエンパワーメントすることが機器の普及・定着に繋がると示唆された。
【はじめに】
国は、医療・福祉の現場の働き手の不足を危惧し、デジタル機器や介護ロボットの実用化を推進している。しかし、先行事例では導入から定着に時間を要し、一時的な作業効率の低下をきたすと言われている。当施設は、高齢化率38.7%、生産年齢人口率51.3%の地域にある地域中核病院の付帯施設で、入所50床(ショートステイ含む)、通所50床の超強化型介護老人保健施設である。2023年度、大分県介護ロボット普及推進センターの伴走支援を受け、デジタル機器(インカム、見守りシステムaams、スマートフォン)や介護ロボット(移乗支援機器hug)を導入した効果と課題について報告する。
【目的】
デジタル機器、介護ロボット導入後の効果と課題を明らかにする。
【方法】
1.研究期間 2023年6月1日から2024年4月30日
2.研究対象 利用者15名、スタッフ37名
3.研究方法 デジタル機器やロボットの導入前(2023年6月)、後(2024年3月)、a .腰痛調査、b.歩数調査、c.ワークエンゲージメント調査をした。介護ロボットは評価表(研究者が作成した10項目と使用者・利用者の感想欄あり)を用いた。
4.用語の定義
腰痛調査とは、腰痛、腰のほかの痛み、疲労感、精神的な疲労感の4つの有無を問うもので、日本ノーリフト協会出典を使用した。
ワークエンゲージメント指数とは、個人と仕事との関係を数値化したもの。本研究では、県の伴走支援の担当者が、導入前後の調査、集計を実施し、匿名化したデータを共有した。
5.分析方法 3の調査から、a、c はWilcoxon検定、bはStudent-t検定にて解析、評価表は単純集計し、導入前後の比較分析をした。
6.COIなし
7.倫理的配慮 対象に本研究の目的、匿名化、目的外利用をしないことを説明し、同意を得た。病院の倫理委員会での承認後に実施した。
【結果】
介護ロボットは2023年7月、デジタル機器は12月に導入した。7月、12月に施設内でコロナ感染が流行し、利用者計15名、スタッフ計4名が罹患し、施設内療養期間が計45日だった。
1.腰痛調査 [腰痛が常時ある]導入前8.1%、後19.4%(p=0.893)だった。腰の他の痛みは、導入前後ともに48.6%だった。[疲労感が休んでも抜けない]導入前18.9%、後25.0%(p=0.855)だった。[精神的な疲労で、気持ちが沈んで仕事をするのがきつい]導入前2.7%、後8.3%(p=0.715)だった。
2.歩数調査 導入前後の各2週間、勤務日に万歩計を装着してもらった。対象は、夜勤をする看護、介護の20名から、異動や万歩計のトラブルで11名に減った。導入前の一勤務の平均歩数は8339歩、後7767歩(p=0.328)だった。歩数減は6名、平均23.1%だった。
3.ワークエンゲージメント指数は、導入前2.75、後2.99だった。 [コミュニケーションが取りやすい]やや思う以上76.0%増加(p=0.715)した。[業務中不安を感じる]ややある以上18%減少(p=1.000)した。[夜勤帯に精神的余裕がある]やや思う以上16.6%減少(p=1.000)した。[1日に利用者とコミュニケーションをとる時間]55分から89分へ増加した。[現在の職場に対しての全体的な満足度]やや満足以上12.4%減少(p=1.000)した。理由:改善の余地がある、業務が定まっていない、業務に追われる等[見守りステムの操作に慣れるまでの時間]4週間以内82%、それ以上18%だった。[テクノロジー導入による業務負担軽減感]やや減った以上68%だった。[テクノロジー導入による介護の質向上感]やや向上した以上61%だった。
介護ロボット評価 10項目50点満点中、平均42.1点だった。高得点は、[腰痛の予防や軽減に期待できる]4.8点、低得点は、[介護にかかる時間の短縮]3.8点だった。使用者の感想は、最高に良い、十分慣れていないが、使いこなせば介護負担が軽減できる、スライディングボードよりあまりに楽で拍子抜けした、一時的に転倒リスクが高まった等だった。利用者の感想は、今までできなかったことができた。職員に動くことを制限されている気がしていたが、遠慮が減った。自分で操作出来たらどんなにいいか、職員に抱えられるより痛くない、最初は怖かったが慣れたら良い等だった。
【考察】
腰痛調査では、腰痛や疲労軽減の効果が乏しかった。慣れていないという回答の一方で、使いこなせれば楽になる、とても楽、介護負担が軽減したという回答があった。どんな場面で腰痛やその他の痛みを感じるか等、個別性を加味した調査に変更し、経時的にみていく必要がある。
歩数調査では、一勤務の平均歩数は7%減とわずかだが、歩数減のスタッフに絞ると、平均23.1%減だった。万歩計のトラブル等で対象が少なく、機器導入を評価することは難しかった。また、スタッフ1人当たりの平均歩数の差の開きがわかり、今後の調査では、年齢や体格による補正、入浴日等の繁忙状況、勤務人数のばらつき等、期間や対象の条件の担保が課題だと分かった。
ワークエンゲージメントの調査では、機器活用の期待が高まる一方、適応に時間がかかるといえた。ワークエンゲージメント指数は2.99と0.24ポイント増だった。島津明人による16国で国際比較したデータで、日本は最下位の2.8だったが、当施設も例外なく低かった。結果を元に改善することで、スタッフの満足度向上に繋げたい。
介護ロボットの評価では、利用者の感想から、慣れてもらうケア、離床意欲向上に伴う一時的な転倒リスク上昇を念頭に置いたケアが必要だといえた。
今回、全ての調査に有異差はなかった。介護ロボットやデジタル機器の導入から、1年も経過していないこと、コロナの施設内流行が普及に影響したことが考えられる。調査結果より、定着に時間が必要なのは明らかだが、スタッフや利用者が期待を抱きつつ、前に進んでいる様子が分かった。本研究より、施設管理を担う者は、個別化したアウトカムの構築と経時的な調査で、スタッフや利用者をエンパワーメントすることが介護現場への機器の普及・定着に繋がると示唆された。
国は、医療・福祉の現場の働き手の不足を危惧し、デジタル機器や介護ロボットの実用化を推進している。しかし、先行事例では導入から定着に時間を要し、一時的な作業効率の低下をきたすと言われている。当施設は、高齢化率38.7%、生産年齢人口率51.3%の地域にある地域中核病院の付帯施設で、入所50床(ショートステイ含む)、通所50床の超強化型介護老人保健施設である。2023年度、大分県介護ロボット普及推進センターの伴走支援を受け、デジタル機器(インカム、見守りシステムaams、スマートフォン)や介護ロボット(移乗支援機器hug)を導入した効果と課題について報告する。
【目的】
デジタル機器、介護ロボット導入後の効果と課題を明らかにする。
【方法】
1.研究期間 2023年6月1日から2024年4月30日
2.研究対象 利用者15名、スタッフ37名
3.研究方法 デジタル機器やロボットの導入前(2023年6月)、後(2024年3月)、a .腰痛調査、b.歩数調査、c.ワークエンゲージメント調査をした。介護ロボットは評価表(研究者が作成した10項目と使用者・利用者の感想欄あり)を用いた。
4.用語の定義
腰痛調査とは、腰痛、腰のほかの痛み、疲労感、精神的な疲労感の4つの有無を問うもので、日本ノーリフト協会出典を使用した。
ワークエンゲージメント指数とは、個人と仕事との関係を数値化したもの。本研究では、県の伴走支援の担当者が、導入前後の調査、集計を実施し、匿名化したデータを共有した。
5.分析方法 3の調査から、a、c はWilcoxon検定、bはStudent-t検定にて解析、評価表は単純集計し、導入前後の比較分析をした。
6.COIなし
7.倫理的配慮 対象に本研究の目的、匿名化、目的外利用をしないことを説明し、同意を得た。病院の倫理委員会での承認後に実施した。
【結果】
介護ロボットは2023年7月、デジタル機器は12月に導入した。7月、12月に施設内でコロナ感染が流行し、利用者計15名、スタッフ計4名が罹患し、施設内療養期間が計45日だった。
1.腰痛調査 [腰痛が常時ある]導入前8.1%、後19.4%(p=0.893)だった。腰の他の痛みは、導入前後ともに48.6%だった。[疲労感が休んでも抜けない]導入前18.9%、後25.0%(p=0.855)だった。[精神的な疲労で、気持ちが沈んで仕事をするのがきつい]導入前2.7%、後8.3%(p=0.715)だった。
2.歩数調査 導入前後の各2週間、勤務日に万歩計を装着してもらった。対象は、夜勤をする看護、介護の20名から、異動や万歩計のトラブルで11名に減った。導入前の一勤務の平均歩数は8339歩、後7767歩(p=0.328)だった。歩数減は6名、平均23.1%だった。
3.ワークエンゲージメント指数は、導入前2.75、後2.99だった。 [コミュニケーションが取りやすい]やや思う以上76.0%増加(p=0.715)した。[業務中不安を感じる]ややある以上18%減少(p=1.000)した。[夜勤帯に精神的余裕がある]やや思う以上16.6%減少(p=1.000)した。[1日に利用者とコミュニケーションをとる時間]55分から89分へ増加した。[現在の職場に対しての全体的な満足度]やや満足以上12.4%減少(p=1.000)した。理由:改善の余地がある、業務が定まっていない、業務に追われる等[見守りステムの操作に慣れるまでの時間]4週間以内82%、それ以上18%だった。[テクノロジー導入による業務負担軽減感]やや減った以上68%だった。[テクノロジー導入による介護の質向上感]やや向上した以上61%だった。
介護ロボット評価 10項目50点満点中、平均42.1点だった。高得点は、[腰痛の予防や軽減に期待できる]4.8点、低得点は、[介護にかかる時間の短縮]3.8点だった。使用者の感想は、最高に良い、十分慣れていないが、使いこなせば介護負担が軽減できる、スライディングボードよりあまりに楽で拍子抜けした、一時的に転倒リスクが高まった等だった。利用者の感想は、今までできなかったことができた。職員に動くことを制限されている気がしていたが、遠慮が減った。自分で操作出来たらどんなにいいか、職員に抱えられるより痛くない、最初は怖かったが慣れたら良い等だった。
【考察】
腰痛調査では、腰痛や疲労軽減の効果が乏しかった。慣れていないという回答の一方で、使いこなせれば楽になる、とても楽、介護負担が軽減したという回答があった。どんな場面で腰痛やその他の痛みを感じるか等、個別性を加味した調査に変更し、経時的にみていく必要がある。
歩数調査では、一勤務の平均歩数は7%減とわずかだが、歩数減のスタッフに絞ると、平均23.1%減だった。万歩計のトラブル等で対象が少なく、機器導入を評価することは難しかった。また、スタッフ1人当たりの平均歩数の差の開きがわかり、今後の調査では、年齢や体格による補正、入浴日等の繁忙状況、勤務人数のばらつき等、期間や対象の条件の担保が課題だと分かった。
ワークエンゲージメントの調査では、機器活用の期待が高まる一方、適応に時間がかかるといえた。ワークエンゲージメント指数は2.99と0.24ポイント増だった。島津明人による16国で国際比較したデータで、日本は最下位の2.8だったが、当施設も例外なく低かった。結果を元に改善することで、スタッフの満足度向上に繋げたい。
介護ロボットの評価では、利用者の感想から、慣れてもらうケア、離床意欲向上に伴う一時的な転倒リスク上昇を念頭に置いたケアが必要だといえた。
今回、全ての調査に有異差はなかった。介護ロボットやデジタル機器の導入から、1年も経過していないこと、コロナの施設内流行が普及に影響したことが考えられる。調査結果より、定着に時間が必要なのは明らかだが、スタッフや利用者が期待を抱きつつ、前に進んでいる様子が分かった。本研究より、施設管理を担う者は、個別化したアウトカムの構築と経時的な調査で、スタッフや利用者をエンパワーメントすることが介護現場への機器の普及・定着に繋がると示唆された。