講演情報

[14-O-D001-01]自分で気づく動作環境の支援

*眞辺 隆幸1 (1. 福岡県 老健センターながお)
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認知症高齢者に安全な移動を促すピクトグラムを目に入る場所に掲示することで、福祉用具の未使用回数の減少に一定の効果が得られたので、その有効性を報告する。施設入所中の利用者の生活環境にピクトグラムを設置し、その前後で福祉用具未使用回数を計測して比較した。その結果、設置後に福祉用具の未使用回数は減少したが、福祉用具未使用時にはBPSDもあり、これに予防的に関わる支援も必要であると分かった。
【はじめに】
当施設は認知症専門棟を有しており、認知症高齢者の在宅復帰・在宅支援を実施している。高齢者は加齢とともに運動能力や筋力が低下し転びやすくなる。さらに、高齢者の転倒は、容易に骨折を伴い、健康的な生活を損う原因となる。また、認知症を伴うと脳神経障害による歩行・バランス能力の低下、ADLの障害、それだけでなく同時に2つ以上の作業を行うことが難しくなる実行機能障害などにより転倒しやすい状態となる。
【目的】
本研究は 転倒リスクの高い認知症高齢者が“自分で気づく”動作環境の支援としてピクトグラムが有効であるかを明らかにすることを目的とする。
【研究期間】
2024年2月~5月
【研究方法】
1.認知症高齢者が気づくピクトグラムの作成、理解度の調査及びピクトグラムの選定
2.環境支援実施前、対象者の移動動作時の福祉用具未使用回数の調査(調査期間 5日間)
3.施設生活環境へ福祉用具の使用を促すピクトグラムの設置
4.環境支援実施後、対象者の移動動作時の福祉用具未使用回数の調査(調査期間 5日間)
【対象者】
対象1 O氏 82歳 女性 アルツハイマー型認知症 HDS-R 19/30 見当識障害、記憶障害 3か月以内の転倒歴:あり  行動や心理状態:夫が他界後京都で次男と過ごしていた経緯から、「家族に連絡をしないといけない」など家族を心配することが多い。電話を持って福祉用具を使用せずに移動する行為が散見される。
対象2 N氏 77歳 女性 レビー小体型認知症 HDS-R 14/30見当識障害、記憶障害 3か月以内の転倒歴:あり 行動や心理状態:元々ケアハウスで姉と2人暮らしをしていたが、姉の体調不良により入所となる。家へ帰りたいといった気持ちが強く、家に帰ろうと歩き始めるが福祉用具を使用せずに移動する行為が散見される。
【結果】
ピクトグラムを作成するにあたり認知症高齢者が理解しやすいものとなるように努めた。認知症高齢者は学習の必要なピクトグラムは伝わりにくく、見た形だけで理解する。そして、対象物と人の動作の組み合わせは伝わりやすく、また、文字表記も伝わりやすい。(認知症の人にもやさしいデザインの手引き:福岡市発行)そこで、“対象物と人とを組み合わせたピクトグラム”と“対象物と人とを組み合わせたピクトグラムと文字表記の組み合わせ”の2種類を作成した。このピクトグラムを対象者に提示し理解度を調査した。対象者はともに“ピクトグラムと文字表記の組み合わせ”に理解を示した。理解を示したピクトグラムを生活動作で頻回に使用するトイレ、自席、洗面台に見やすい高さや見やすい位置となるように設置した。
ピクトグラムを使用した環境支援実施前、総移動回数と福祉用具未使用での移動回数を測定した結果、対象1:総移動回数55回中、福祉用具未使用での移動回数16回。対象2:総移動回数24回中、福祉用具未使用での移動回数は13回であった。
ピクトグラムを使用した環境支援実施後、対象1:総移動回数55回中、福祉用具未使用での移動回数9回で、福祉用具未使用での移動回数は7回減少した。対象2:総移動回数24回中、福祉用具未使用での移動回数6回で、福祉用具未使用での移動回数は7回減少した。ピクトグラムを使用した環境支援実施前後の福祉用具未使用での移動回数の比較として、対象1、対象2共にピクトグラム使用した環境支援実施後に福祉用具未使用での移動回数は減少した。
【考察】
認知症高齢者に対し、視覚的に情報や注意を示す案内記号としてピクトグラムを活用した安全な移動環境の促しは一定の効果を認めた。しかし、対象者の内的世界が「家族のことが心配だ」「自宅に帰らないといけない」などの心理状態の際には、福祉用具未使用での移動動作を認めた。上記のような心理状態では、本人にとってかけがえのないもの(大切な人やこれまでの生活基盤)に注意が向き、いつもより注意が散漫になり、同時に物事を進めることが難しくなる。本人にとって強く注意が向いている事柄を優先した結果、福祉用具未使用での移動に至ったのではないかと考えた。
【まとめ】
 中核症状を有する認知症高齢者が安全に移動することを支援することは、健康的な生活を支援することにもつながる。今回“自分で気づく”動作環境として、ピクトグラムを使用し、一定の効果を得ることができた。しかし、内的世界による影響から、十分に効果を得られない状況も確認できた。認知症高齢者のBPSDは適切な関わりにより、これらの症状を和らげることが可能である。中核症状を有する認知症高齢者がより健康で安心した生活を支援するためには、“自分で気づく”動作環境の支援と同時にBPSDに予防的に関わり、その症状を和らげる支援が重要である。
引用文献「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」(福岡市発行)