講演情報
[14-O-D001-02]パーソン・センタード・ケアの実践結果~職員の意識向上を目指して~
*伊藤 悦子1、大塚 友美子1 (1. 福井県 特定医療法人千寿会介護老人保健施設アルマ千寿)
認知症ケアの考え方のひとつである「パーソン・センタード・ケア」を職員の意識向上を目的にフロア全体で取り組んだ。アンケート調査をもとに職員の気持ちの変化や気づきを集計した結果を報告する。ケア実践前後での職員の気持ちの変化はポジティブなものが増えており、ケアの実践が職員の意識向上に繋がったと考えられる。一方で関わりづらくなったという意見もありフロア全体で取り組む姿勢を継続していくことが大切と考える。
【はじめに】
認知症ケアの考え方のひとつに「パーソン・センタード・ケア」がある。認知症を持つ人を一人の人として尊重しその人の視点に立って理解し共にケアに取り組もうとするものである。またBPSDは周りの関わり方で改善をすることができると言われている。このような考え方がある事を学び、日々の認知症ケアに取り入れ実践した取り組みとアンケート結果を報告する。
【目 的】
帰宅要求が続くご利用者に対し無視をする、感情的な声かけをするなど好ましくない対応が目に付くことがあった。また、繰り返しの要求に対し、いつもの事とフロア全体が諦めの雰囲気でもあり、ご利用者が安心できる居場所と言う点では問題があった。認知症ケアについて今一度学び直し、職員全体の質、意識の向上を目指すものとした。
【方 法】
実施対象者:2階職員
介護福祉士15名、看護師5名、理学療法士3名、言語聴覚士1名
期 間:令和6年4月12日~6月10日
実施内容:
・ケア内容チェック表の記入
・事前アンケートの実施
・研修動画の視聴・ケアの実践
・事後アンケートの実施
ケア内容チェック表については帰宅要求が頻回にある女性ご利用者1名を対象に観察を行い、時間・症状・対応の内容・その後の様子について記録した。研修動画はパーソン・センタード・ケアについて学習するものを作成し各自が視聴した。理解した内容をケアで実践。学ぶ前後での気持ちの変化や気付きについてアンケートを実施した。
【アンケート内容と結果】
(1)事前アンケートの調査結果
<認知症高齢者の対応で困ったこと>は、理解してもらえない、ケアの拒否、同じ訴えを繰り返すなどの認知症の中核症状やBPSDから来る困難感が挙げられた。また、その人に合った適切な対応をみつけること、業務が回らず対応できないと言うような対応方法に困難感を抱える内容もあった。<認知症高齢者と関わる時の感情>は、イライラ、諦め、困るなどであった。<認知症高齢者との関わりの中で工夫をしていること>は、傾聴する、声のトーンや話し方、簡潔に答えるなどのコミュニケーション方法の工夫や、否定しない、理由を聞く、相手の立場に立って考えるなどのご利用者を尊重する向き合い方や、ストレスを溜めない、上手くいかなくて当たり前と思うなどの自分の精神状態の安定を図るものもあった。
(2)事後アンケートの調査結果
<パーソン・センタード・ケアを学んで工夫したこと>は、傾聴、声かけ・話し方、否定しないなどであった。<パーソン・センタード・ケアの実施前後での気持ちの変化>は、関わりづらくなる、声掛けの仕方がわからなくなった、難しいなどのケアの実践による困難感が見られた。その反面、イライラが減った、ストレスを感じにくくなったなどの心理状態の緩和や、本人の気持ちに寄り添おうと思ったという、ご利用者の視点に立ったケアを意識するものもあった。また、忙しい時は話を最後まで聞くことができない、時間に余裕がないという業務に追われながら認知症ケアをする難しさも聞かれた。その他、対応している職員に偏りがあるという意見もあった。
【考 察】
パーソン・センタード・ケアの研修前後での職員の気持ちの変化として、ポジティブなものが増えており、パーソン・センタード・ケアを実施したことによって認知症ケアに対する意識向上に繋がったと考えられる。その中でも「本人の気持ちを想像しながら話すのでイライラする事が減った」「ストレスなど感じにくくなった」という変化は認知症高齢者に寄り添い誠実に対応する事で職員自身が穏やかな気持ちで接する事に繋がったのではないかと考える。また、「本人の気持ちに寄り添おうと思った」という、認知症の人の視点に立つことに重点を置きケアを行う事もできていた。その反面「ケアの方法を意識することで逆に関わりづらくなった」「対応の仕方がわからなくなった」「だましたり、嘘をつかないことが難しい」という意見があった。これらは、今までの認知症ケアにおいて認知症高齢者の価値を低める行為を行っていた職員がパーソン・センタード・ケアを学び、認知症高齢者の価値を高める行為を実践したことで生じた悩みであり、ケアの方法を模索していた姿が伺える。また、「対応している職員に偏りがあると思った」との意見があり、「逆に関わりづらくなった」と感じた職員はケアに消極的になっていたとも考えられる。このような様子がみられた時にはケア方法のアドバイスなど職員同士で気軽に声を掛け合える雰囲気づくりやフロア全体で取り組む姿勢を継続していくことが大切と考える。その他「忙しい時は話を最後まで聞く事ができない」「時間に余裕がない」などのマンパワー不足から、丁寧な対応をしたいができないジレンマを抱えており、認知症高齢者の対応をフロア全体で協力しながら行える体制づくりが必要と考える。
【おわりに】
今回、取り組みの対象となったご利用者については、実践中にも強い帰宅要求や食事拒否が見られBPSDの緩和には至らなかった。また職員からも理想と現実のギャップに戸惑う声が聞かれた。しかし、フロア全体で共に考え、それぞれに気づきを得られたこと、同じ意識のもと、模索しながらもケアに取り組めたことは意義のあるものであったと考える。取り組み終了後もパーソン・センタード・ケアを継続的に実施し、職員全体の意識の定着を今後の課題としたい。今回の学びや気づきを個々がケアに活かし、ご利用者が心穏やかに安心して過ごせる居場所づくりに皆で励んでいきたい。
【参考文献】
1)鈴木みずえ:認知症の看護・介護に役立つよくわかるパーソン・センタード・ケア(2018)
認知症ケアの考え方のひとつに「パーソン・センタード・ケア」がある。認知症を持つ人を一人の人として尊重しその人の視点に立って理解し共にケアに取り組もうとするものである。またBPSDは周りの関わり方で改善をすることができると言われている。このような考え方がある事を学び、日々の認知症ケアに取り入れ実践した取り組みとアンケート結果を報告する。
【目 的】
帰宅要求が続くご利用者に対し無視をする、感情的な声かけをするなど好ましくない対応が目に付くことがあった。また、繰り返しの要求に対し、いつもの事とフロア全体が諦めの雰囲気でもあり、ご利用者が安心できる居場所と言う点では問題があった。認知症ケアについて今一度学び直し、職員全体の質、意識の向上を目指すものとした。
【方 法】
実施対象者:2階職員
介護福祉士15名、看護師5名、理学療法士3名、言語聴覚士1名
期 間:令和6年4月12日~6月10日
実施内容:
・ケア内容チェック表の記入
・事前アンケートの実施
・研修動画の視聴・ケアの実践
・事後アンケートの実施
ケア内容チェック表については帰宅要求が頻回にある女性ご利用者1名を対象に観察を行い、時間・症状・対応の内容・その後の様子について記録した。研修動画はパーソン・センタード・ケアについて学習するものを作成し各自が視聴した。理解した内容をケアで実践。学ぶ前後での気持ちの変化や気付きについてアンケートを実施した。
【アンケート内容と結果】
(1)事前アンケートの調査結果
<認知症高齢者の対応で困ったこと>は、理解してもらえない、ケアの拒否、同じ訴えを繰り返すなどの認知症の中核症状やBPSDから来る困難感が挙げられた。また、その人に合った適切な対応をみつけること、業務が回らず対応できないと言うような対応方法に困難感を抱える内容もあった。<認知症高齢者と関わる時の感情>は、イライラ、諦め、困るなどであった。<認知症高齢者との関わりの中で工夫をしていること>は、傾聴する、声のトーンや話し方、簡潔に答えるなどのコミュニケーション方法の工夫や、否定しない、理由を聞く、相手の立場に立って考えるなどのご利用者を尊重する向き合い方や、ストレスを溜めない、上手くいかなくて当たり前と思うなどの自分の精神状態の安定を図るものもあった。
(2)事後アンケートの調査結果
<パーソン・センタード・ケアを学んで工夫したこと>は、傾聴、声かけ・話し方、否定しないなどであった。<パーソン・センタード・ケアの実施前後での気持ちの変化>は、関わりづらくなる、声掛けの仕方がわからなくなった、難しいなどのケアの実践による困難感が見られた。その反面、イライラが減った、ストレスを感じにくくなったなどの心理状態の緩和や、本人の気持ちに寄り添おうと思ったという、ご利用者の視点に立ったケアを意識するものもあった。また、忙しい時は話を最後まで聞くことができない、時間に余裕がないという業務に追われながら認知症ケアをする難しさも聞かれた。その他、対応している職員に偏りがあるという意見もあった。
【考 察】
パーソン・センタード・ケアの研修前後での職員の気持ちの変化として、ポジティブなものが増えており、パーソン・センタード・ケアを実施したことによって認知症ケアに対する意識向上に繋がったと考えられる。その中でも「本人の気持ちを想像しながら話すのでイライラする事が減った」「ストレスなど感じにくくなった」という変化は認知症高齢者に寄り添い誠実に対応する事で職員自身が穏やかな気持ちで接する事に繋がったのではないかと考える。また、「本人の気持ちに寄り添おうと思った」という、認知症の人の視点に立つことに重点を置きケアを行う事もできていた。その反面「ケアの方法を意識することで逆に関わりづらくなった」「対応の仕方がわからなくなった」「だましたり、嘘をつかないことが難しい」という意見があった。これらは、今までの認知症ケアにおいて認知症高齢者の価値を低める行為を行っていた職員がパーソン・センタード・ケアを学び、認知症高齢者の価値を高める行為を実践したことで生じた悩みであり、ケアの方法を模索していた姿が伺える。また、「対応している職員に偏りがあると思った」との意見があり、「逆に関わりづらくなった」と感じた職員はケアに消極的になっていたとも考えられる。このような様子がみられた時にはケア方法のアドバイスなど職員同士で気軽に声を掛け合える雰囲気づくりやフロア全体で取り組む姿勢を継続していくことが大切と考える。その他「忙しい時は話を最後まで聞く事ができない」「時間に余裕がない」などのマンパワー不足から、丁寧な対応をしたいができないジレンマを抱えており、認知症高齢者の対応をフロア全体で協力しながら行える体制づくりが必要と考える。
【おわりに】
今回、取り組みの対象となったご利用者については、実践中にも強い帰宅要求や食事拒否が見られBPSDの緩和には至らなかった。また職員からも理想と現実のギャップに戸惑う声が聞かれた。しかし、フロア全体で共に考え、それぞれに気づきを得られたこと、同じ意識のもと、模索しながらもケアに取り組めたことは意義のあるものであったと考える。取り組み終了後もパーソン・センタード・ケアを継続的に実施し、職員全体の意識の定着を今後の課題としたい。今回の学びや気づきを個々がケアに活かし、ご利用者が心穏やかに安心して過ごせる居場所づくりに皆で励んでいきたい。
【参考文献】
1)鈴木みずえ:認知症の看護・介護に役立つよくわかるパーソン・センタード・ケア(2018)