講演情報

[14-O-Q001-05]超強化型老健ならではの通所リハ運営の戦略

*菊池 洋志1 (1. 栃木県 介護老人保健施設やすらぎの里八州苑)
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近年さまざまな背景から通所リハビリの利用者確保が不安定となってきており、それは全国的なトレンドと考える。一方で、老健から在宅復帰したケースは自施設の通所リハビリを利用することが多い。その傾向を考慮し、老健の回転率を高めることで通所の利用者が増加するのではないかと考え1年間回転率を高める取り組みを行った。その結果実際に通所の利用者は増加し、老健の特性を活かした有用な取り組みであったと考えた。
【はじめに】
 われわれの施設では、5-6年ほど前より自法人外の居宅介護支援事業所からの利用者紹介が減少し、通所リハビリ利用者の確保が不安定となっていた。さらに、近年では近隣の通所系介護事業所の休廃業も目立つようになった。地域差もあるものの、おおむね高齢者人口は増加しているにもかかわらずこのような現象が起きているのは全国的なトレンドなのではないだろうか。その原因としては、通所系介護事業所の乱立に加え、介護業界における事業所のM&Aが進み利用者の囲い込みが顕著となっていることの影響が大きいと考えている。一方、われわれは2018年より超強化型老健として運営している中で、在宅復帰した利用者はそのまま自施設の通所リハビリを利用されることが多いと感じていた。通所系介護事業所の利用者確保については上述のような逆風があるものの、この在宅復帰と通所リハビリ利用者の関連性に着目し、老健のベッド回転率を意図的に上げることで通所利用者の増加につながるのではないかと考え2023年度の1年間その取り組みを実践した。その結果、一定の成果をあげることができたので考察を加え報告する。

【結果】
 2022年度と2023年度のデータを比較する。まず老健の回転率は2022年度が19.6%であるのに対して2023年度は21.2%だった。老健からの総退所者は2022年度が221名、2023年度が271名だった。
 次に、老健退所後に実際に通所リハビリを利用されたケースは2022年度が42名で2023年度が51名と増加した。また、要介護者の年間合計利用実人数は2022年度が1574名に対し2023年度が1608名。合計の利用延べ人数は2022年度が12,710名に対して2023年度は13,515名と通所リハビリの利用人数は総数でも増加していた。

【考察】
 超強化型老健を維持していくにあたって、ベッド回転率10%以上かつ在宅復帰率50%以上を維持していくことは非常に重要なことである。当施設では、2018年に超強化型老健としての運営を開始してから常に在宅復帰率50%以上を達成してきたが、在宅復帰にカウントされる事例は大きく2つのパターンに分けられると考える。1つは実際にもともと住んでいた自宅や家族の家での生活に戻るパターンAで、もう一つがサービス付き高齢者向け住宅をはじめとするいわゆる「高齢者向けの住まい」に入居するパターンBである。Bでなく、Aの事例を増やすことができれば自施設の通所サービスを利用されることが増えることは自明であり、当施設ではこれまでさまざまな取り組みを行ってきた。しかしながら、物理的要因・社会的要因・家族的要因などさまざまな要因でBのパターンで退所される方は必ず一定数存在し、その母数を減らすことはしばしば困難である。実際に当施設においても、AとBの割合は2022年度が48%/52%、2023年度が43%/57%とBの割合は半数を上回っており、Bの割合を減らす努力をしているにもかかわらずむしろその割合は増加している。この理由についてはいくつか考えられるが、自施設においては、もともと独居であったケースや、医療的に重篤なケースなどいわゆる困難事例の増加が背景にあると考えられた。
 このように、直接Bを減らしてAのパターンを増やすことは容易ではないため、われわれは退所される方の総数を増やすことでBとともにAの人数を増加させることを考えた。例えばAとBの割合がそれぞれ半数だとすると、退所者が10名のときのAのパターンで退所される方は5名、退所者が20名のときのAのパターンで退所される方は10名となる。この戦略をもと、総退所者を増やすべく1年間回転率を高める取り組みを継続した結果、実際に通所リハビリの利用者は増加した。通所利用者の確保という観点からは有効な取り組みであったと考えられた。
 一方で、当然ながら課題も少なくない。まず真っ先に挙げられることとして現場の負担である。回転率の増加は現場スタッフの負荷を直接増加させることとなる。加えて、回転率の増加と稼働率の維持を両立させるためには非常に困難なベッドコントロールが要求される。当施設では、現場業務の効率化とベッドコントロールを行うスタッフの増員でこの課題を克服すべく努力してきた。また、通所サービスの利用者が増加すると念頭に入れなくてはならないことが大規模減算の存在である。大規模減算については、今年度より特定の要件を満たすことで大規模型事業所でも通常規模と同等の評価で算定可能となるため、要件を満たすことができるよう調整中である。
 このように克服すべき課題も多数存在するものの、今回の取り組みはわれわれ老健にしかできない重要な取り組みであると考えた。今年度介護事業所の倒産件数は、上半期過去最悪のペースで推移している。そのような過酷な環境の中で老健ならではの特性を活かした利用者確保の努力をしていく必要がある。地域包括ケアシステムの重要な資源であるわれわれ老健の経営状況を健全な状態に保つことは直接地域に資することであり、今後もその責任感をもって運営にあたりたいと考えている。